鶴が足元に舞い降りた

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私は幼稚園生のとき、いつも独りだった。極度の引っ込み思案で誰とも遊ばなかった。 みんなが校庭で遊んでいるとき、園内の反対側にあるコンクリートのブロックに座って足下ばかり見ていた。小さな石ころたちや無造作に生えた雑草たちが、私のことを見ていた。 そんなある日、赤い一羽の折り鶴が足下に舞い降りる。びっくりして目線を上げると、同級生の男の子が立っている。 「一緒に鶴を折ろう」と言って、私にピンク色の折り紙を渡してくれる。男の子は緑の折り紙だった。私も男の子も折り鶴は得意で、すぐに完成する。 「見ててね」男の子は2羽の折り鶴を掌にのせ、ふーっと息を吹きかけた。すると折り鶴は羽を動かして、空に飛んで行った。まるで本物の鳥みたいに。私は驚いて声も出せない。 「一緒に空に向かって叫ぼう」男の子は私の左手を握って、あー!と声を上げる。私もそれに釣られて、あー!と叫ぶ。 すると、どこからきたのか、色んな方向から沢山の折り鶴が空に向かって飛んでくる。空を覆い尽くすぐらいの折り鶴は大きな弧を作り出す。それは巨大な虹になる。折り鶴の虹が青空にかかる。 「きれい」私はそう言わずにはいられない。折り鶴の虹はそのまま消えてしまう。また青空だけがそこには広がる。 「また一緒に折り紙しよう」男の子はどこかに行ってしまう。私はまた1人になる。でももう足下は見ない。さっきまで広がっていた折り鶴の虹に想いをはせる。だから青空をずっと見上げている。 折り鶴の虹を心に描いて、私は歩き始めた。
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