モノ語り―問いし君はも―

オト　私は人間に三世代にわたって使われております。確かにどの方にも大切にしていただいております。
姫　幸せなことじゃない。これ以上、何を望むっていうの？
オト　何、とははっきり申せません。ただ、人の形を取りたいのです。
太郎　人の…？
姫　あんたね、それがどういうことか分かってるの？
オト　どういうこと、とは？
姫　…知らないのね。じゃあ教えてあげるわ。
　　モノに宿った魂には、もともと形がある。あんたの場合、櫛ね。その櫛の形を作り変えて人の形になるってことは、相当のエネルギーを使うのよ。魂の力を削って行う行為だから簡単なことじゃないし、それに…。
オト　難しいことを言っていることは私にもわかっています。ですが、何としても私は人にならなければいけないんです。
太郎　元に戻れなくても、ですか？
オト　え…？
姫　太郎。
太郎　姫、はっきりと言わなくてはこのモノには通じません。