モノ語り―問いし君はも―

　　　モノが人になることを望む。それは本来許されない行いです。世の理を捻じ曲げる行為ですから。だからたとえ姫の力や、この神社の神の力を借りて人になれたとしても、形を保っていられる時間は限られているし、そのまま寿命が尽きる。櫛の形に戻ることもできないまま、魂も消えてしまいます。
オト　そんな…。
太郎　あなたが望んでいることはそういうことです。軽い気持ちで人になりたいなどと思ったのであれば…。
オト　軽い気持ちではありません！
姫　じゃあなんで？　今のを聞いて分かったでしょう？　消えることを覚悟で行う行為よ。
オト　私は…。私はおそらく、今の形を長く留めておくことはできません。形自体の寿命が近づいてきているのです。そう悟った時から、どうしようもなく人間の姿になりたいと思うようになりました。理由は分かりません。ただ、今ではこの思いだけが強く、私の魂を占めているのです。
姫　あんたたち魂の存在がよく言ってるのは、持ち主に感謝を伝えたいからっていう理由だけど。でもそんな理由で人間になったなんてのは聞いたことないわ。