暗闇の中。

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暗闇の中。

 夜、八時を回った頃。外界は大粒の雨が降り、空は重暗く、風が吹き荒れていた。  安いアパートの一角に住んでいる私は、まるで檻の中にいる気分になりながら窓を見上げていた。  小さなソファにうずくまり、つけっぱなしのテレビと、入れてからずいぶん放置したままのコーヒーを前に、ため息を吐く。  ――雷、やだなあ。  時折光る空にびくっと身体を震わせる。遅れてやってくる大きな音は、私の大嫌いなものだった。 「誰かといたら平気なのにっ」  耳を塞ぎ、半ば叫びながらやり過ごす。そんな時だった。  再び空が光った、と思った瞬間、衝撃すら感じるくらいの音と共にふっと周囲が暗くなった。 「えっ」  停電。  その言葉が頭を過った途端、さあっと頭から血が引いていくのを感じた。  ――暗い、暗すぎる。  気付けば呼吸も荒くなっている。  慌てて立ち上がってみるが、周りが見えないし、スマホは充電中で手元にない。恐る恐る手を伸ばして、何かに触れた。    コトン、と倒れる音。ビクッと手を引っ込めた。  また雷が落ちた。ビクッと肩を震わせ、私はふらつきながら部屋の隅っこに這いつくばるようにして、向かった。  もう、限界だった。  ぎゅっと身体を縮こまらせて、ふう、とどうにか呼吸を繰り返す。  その間にも雷は容赦なく落ちては音を響かせていた。  ――昔も、こんなことあったな。  暗闇に慣れてきた瞳を擦る。薄っすら滲んでいた涙が手の甲を濡らした。  そう、あの日も――。  あの日もこんな嵐の夜だった。
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