てるてる坊主にさようなら

38/38
219人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「よし。じゃあ、あれはもう要らねえよな」  痛みは呪いじゃない。忘れられない過去――これからを一緒に生きていくものだ。  陽平を置いて、電車を降りる。慌てて追いかけてくる陽平に合わせて、祝はちょっとだけ歩幅を小さくする。追いついてきた陽平が「おれんちに行くのっ?」と期待と不安の入り混じった表情で、祝の肩にすり寄ってきた。 「言っとくけど、さっきみたいなことはしねえぞ。おれはな、しなしなになったてるてる坊主を捨てに行くだけだからなっ」  ふんっ、と鼻から息を吐いて、祝は陽平の手を払う。けれど陽平は、拒まれているにも関わらず、強靭な精神力で祝の手を何度もぎゅっと握ってきた。意外と体温が低いことに気づく。  あ、まつ毛が目の下についてる。  取ろうか取るまいか考えながら、祝が横から見ていると、陽平が視線から逃げるように「そんなに見られると困る」と言って片手で顔を隠した。  照れている顔にドキッとして、祝は不覚にも思いっきり抱きつきたい衝動に駆られる。  でも今は、とりあえず繋がれた手を握り返すだけにしておこう。踏み外して、陽平がホームの下に落ちても困るから。     〈完〉
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!