てるてる坊主にさようなら

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***  開いた窓から侵入してきた風が、クリーム色のカーテンをゆらゆらとなびかせている。女の子のスカートみたいだ。ウトウトと頬杖をついて眺めていると、ガクッと頭が落ちた。額を強く打つ。  祝にとって昼ごはんのあとの時間は、眠気との闘いである。  アウトドアな性格でもないので、弁当を食べ終わったあとの残りの時間は教室で過ごすことがほとんどだ。借りた漫画を読んだり、ネットゲームをしたり、なんとなく仲の良いクラスメイト(主に陽平)と駄弁ったり。 「お。ハジメ一人なん? 陽平は?」  昼下がり。眠気で漫画にもネトゲにも気分が乗らず、あきらめて寝ようとすると、おしゃべりな萩田正也ことマサやんが、祝の席に寄ってきた。窓側の席がうらやましいらしく、暇さえあればマサやんは廊下側にある自分の席から、はるばる祝の席までやってくる。 「陽平? 知らん。なんかA 組の牧野さんに呼び出されてどっか行ったけど」 「え、牧野さんって、あのおっぱいでかい子か? バレー部の」 「そんなに大きくもなかったぞ?」 「いや、そこはどうでもいいっていうか、いやむしろ大事なことだけど……呼び出されたって、まさか告白とか?」  おそらくそうだろう。陽平はバカでアホだけどモテるのだ。  ちょうど陽平の話をしていると、教室のドア近くにいたクラスメイトの男子に「青山ー。赤尾がどこにいるか知らねー?」と、尋ねられた。どうやらまた新たな女子が陽平目当てに訪れてきたらしい。ドアの前では、緊張しているのか下を向いてもじもじと前髪をいじっている女子がいた。  陽平が無駄になついてくるせいで、姿が見つからない時、必ずといっていいほど皆、祝に陽平の居場所を訊いてくる。どれだけ仲が良いと思われているのだろう。  たしかに通学経路も同じなのでなんとなく行き帰りを共にすることが多いし、祝の家に遊びに来て夜ご飯を食べて行くこともある。けれど、祝としてはずっと一緒にいたいと思っているわけではない。向こうが勝手にひっつき虫みたいにくっついてくるのだ。  やかましいと感じれば取り払えばいいだけのことだし、気にならない時はそのままくっつけておけばいいだけである。『友達以上恋人未満』という言葉を借りて、『友達以上親友未満』がしっくりくる。よって恋愛にまで首を突っ込み合う仲ではない。 「知らねえって」  祝はそれだけ言うとマサやんに「こないだ借りたあの漫画さ……」と、別の話題を振る。  その時だった。 「あっ、赤尾くん」  上ずった女子の声がしたのでふとドア付近を見ると、陽平が戻ってきていた。整った眉毛の間に刻まれた皺と、どこか元気なさげな印象が少し気になる。  緊張で前髪をいじりながら陽平を待っていた女子はその手の動きを止めて、「あの、ちょっといいかな?」と言って陽平を見上げた。 「今? うん、いいよ」  陽平はそう言うと、首の横を掻いて笑って見せた。笑顔を向けられた女子は、陽平の整った顔が良い方向に崩れる様に、ぽーっと見とれている。  陽平のもう片方の手がさりげなく腰に添えられているのを見て、祝はあっと思った。 「ちょっと待ったあーっ!」  勢いよく椅子から立ち上がり、陽平と女子のあいだに割って入る。近くで見ると、陽平の額には脂汗がにじんでいた。 「バカ。おまえ脚!」 「へ?」 「へ、じゃねえ。座れ。痛いんだろ」  適当にそこらへんにある誰かの椅子を持ち出し、陽平の後ろに置く。そして強制的に座らせたあと、祝はポンポンと手を叩いた。 「じゃ。続きどーぞ」
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