好転

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好転

最後までを終えると、二人で丁寧に後始末をした。耶駒の手拭いで、嵐のなか先程まで行われていたの痕跡を全て消した。 雨がパラパラと小降りになってきた。 まだ半乾きの上着を二人で身に纏いながら話し合う。 「このことは絶対に二人だけの秘密ちゅうことで。九条様に内緒ですんのは後にも先にも、このいっぺん切りどすさかい」 「うん……知ってる……」 鬼丸は返事に少し歯切れなくそう答えた。 そんな鬼丸の頬に耶駒はそっと手を掛けた。そして先程の余韻に浸りながら、とても柔らかく口付けをした。暫くしてから顔を離すと、鬼丸の目を見てと笑った。 「こんなん何べんもしとったら、いつかどっかでバレてしもうて命がいくつあっても足らへんさかい」 そう言って寂しそうに、また笑った。 鬼丸も耶駒の目をちゃんと見て、一緒に笑った。 二人で何事も無かったように屋敷に戻った――――――――――はずだった。 ◇◇◇ 「なあ。あんたら……(なん)かあったん? 」 九条にそう聞かれて、耶駒は表情を変えずに言った。 「はい? ……恐れながら……何でそないなことをお聞きになられるんどすか? 」 平静を装いながらも、内心はとてもハラハラしていた。鬼丸も、その気持ちは同じだった。 「何でって……最近随分と仲良さげに良うしゃべってはるなと思っとったら、今日は二人ともやけに何にも喋らへんさかい……喧嘩でもしたんかいな、思て……」 「いや……」 『二人の間には何かあっただろう』という九条の思惑に全力で否定しようとして返事をしたら、鬼丸と耶駒、二人で声が被ってしまった。それにお互い反応してしまい、顔をそれぞれきっぱりと対称的に背けた。 「? ……ふぅん……」 そんな息ぴったりな二人を見て、九条は何か言いたげではあったが、それ以上は詮索しなかった。 ◇◇◇ 別の日。九条が席を外して鬼丸は座敷に一人きりになった。畳にころころと横になりながら、ふと思った。 ……俺は……何であんなに耶駒さんのことが好きなんだろう? 優しくしてくれるから? 頼もしいから? ―――――――――――― でも……それよりも、もっと根本的な何かに惹かれているような…… あの顔、雰囲気がすごく落ち着く。 何だろう? まるでいつも守ってくれているような。 その時頭の中に、ふと捺米の顔が浮かんできた。 ああ、わかった。 耶駒さんは―――――――――― 捺米兄に何処か似ている…… 後ろ姿なんて特に。 寄り掛かりたくなるように穏やかな話し方。そんなところもとても良く、似ている。 俺はきっと……捺米兄が恋しいんだろう。 自分の今の気持ちをそう解釈した。 どうか―――――――――― 近いうちに必ず捺米兄に会えますように―――――――――― 彼は切実にそう願って止まない。
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