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もしも願いが叶うなら
私は 何を願うだろう
人並みの幸せが欲しい
そんなことを思っていたのは 一体いつまでだっただろう
あの人と 一緒になって この子を宿して
――私達と同じ猪年だね――
なんて言っていた頃だろうか
その頃は確かに 人並みに幸せだったはずだった
でも
でも 人並みとは なんだろう なんだったんだろう
私は どうして 人並みなんていう
曖昧なものを求めていたんだろう
私は ただ この子がいて
あの人がいればよかった
それだけで
本当にそれだけで 私は十分幸せだった
そう そのはずだった
いったい いつから この子と一緒にいるのが
こんなに苦しくなったんだろう
あの人のことを こんなに憎らしく思うようになったんだろう
いったい いつから いい親で いい妻でいられなくなってしまったんだろう
いったい いつから この子に当たるようになったんだろう
あの人の一挙手一投足に 苛立つようになったのだろう
この子にとって 頼れるのは私なのだ
だからこそ この子は泣いて訴えるのだ
私に 『私はここにいるよ』と
たとえ それがどんな時であっても
どんなに寝不足でも 疲れてうたた寝してしまっているときでも
この子を世話するのは いつも私なのだ
あの人でなく 私なのだ
母親だからこそ 求められることを 確かに愛おしく思える
私は この子の母親なのだと 実感できる
でも
でも 私は 少しだけ疲れてしまった
この子とだけ向かい合うしかない 長い長い時間に
もしも願いが叶うなら
私は 何を願うだろう
今は ただ何も考えない時間がほしい
あの人のことも この子のことも 何もかも
すべてを忘れる時間が
その時間が 私を 私に戻してくれる気がするから
そうしたら
いつか 空の向こうに行きたい
この子も あの人も一緒に
空の向こうは きっと きっとすごく綺麗で
私も この子も この縛られた世界から解放されるはずなのだ
あの人も きっと同じ気持ちになってくれるはずだ
そう
3人で あの空の向こうに行こう
願いが叶ったら
私たちは ずっと変わらない 星になるのだ
いつまでも輝き続ける星に
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