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小学校高学年のとき、
東京から三重に転校してきた女の子がいた。
名前はマコトと言った。
『浅草から転校してきました。ちなみに私は、学級文庫がはやみねかおるばかりでも、江戸川乱歩派です。』
そのときの私は、遠い世界だと思っていた、東京の人を見たのが初めてだった。だから強い憧れを抱くと同時に、綺麗な風貌でキツイ物言いのマコトが怖かった。
『確かにはやみねかおるは三重を代表する作家かもしれない。
でも、私は乱歩が好き。なぜなら彼だってちょっと昔の人だけれど、三重出身のすごい作家だし……
なにより、浅草と三重をつなぐ人だからです!』
今思うと、出身関係なくマコトはかなり尖った女の子だった。
そのせいか、クラスで大人気だったはやみねかおるの児童書は、学級文庫の棚からいつの間にか姿を消した。怯えた持ち主がそっと家に持って帰ったという噂だ。
そして江戸川乱歩の「怪人二十面相」がしれっと棚に紛れ込むようになったほど、彼女の転校早々の挨拶ならぬ演説は偉大だった。
そして私は、当時学級委員だったというだけで、クラスメートから煙たがられた彼女の世話役を押し付けられたのだ。
マコトは親の転勤で三重にやって来た。
彼女は休み時間はずうっと一人で図書館に入り浸って本ばかり読んでいた。
一人でも平気そうな、教室での姿とはまるで別人で、妙にしおらしく見えたのだ。
だから声をかけた。
「マコトちゃんって物知りなんやんね。おすすめのお話私にも教えてくれる?」
それが、私達が心を通わせた瞬間だった。
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