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「右かな……本物じゃない方の月は、じゃあ何?」
「私を迎えに来たのかもしれないね」
うさぎは可愛らしい外見とは裏腹に、とても大人びた物言いをする。一人称が「私」なので、もしかしたら女性なのかもしれないが、外見から性別を判断することは出来なかった。
「うさぎは宇宙人か何か? ……宇宙うさぎ?」
「君は夢見がちだな」
「え? 何が?」
「頭の中が、夢いっぱいだなあ」
「それを言う? 大体うさぎの存在が、夢みたいなものじゃない?」
「そうかもしれないね」
うさぎは小さく鼻を鳴らして、空を見上げた。
「君が選んだ右の『月』……、本当の月だろうか。当たっていたら、願いを一つ叶えよう」
「当たってるかどうか、どうやって判定するの?」
「こうやってさ」
うさぎは長い耳をぴょこぴょこと動かした。何か聞いているのだろうか、耳以外動くこともせず、しんとした時間が流れる。
「──うさ……」
「静かに」
「何かわかるの?」
「近づいてくる」
「何が」
きん、と高い音がした。
耳の奥に響くその音の正体は、空から落ちてきた『月』だった。そんなに大きくはない。元からそう遠い場所にあったわけでもないのだろう。
「右側の、月だ。残念ながら君の願いを叶えることは出来ない」
輝きを放つそれは僕とうさぎの周りをくるくると旋回し出した。
「私を迎えに来たようだ。……君も行くかい」
宇宙船か何かなのだろうか。うさぎはふわりと僕の目線に浮かんだ。
「僕は外れを選んだから、うさぎに願いを叶えて貰えないでしょう? だから、行けない」
「ああ、そうだったね。では君を連れてゆくとしよう」
「──え」
うさぎが言うと、僕も宙に浮かんだ。月の姿を模した宇宙船に沈むように吸い込まれ、地球の引力から引き離された僕は、そこからいなくなった。
ついて行くと言えば、僕はここに一人残されたのだろうか。
あとには静けさだけが残ったが、それを認識する者は誰もいない。
闇夜には一つの月が、明るく輝いていた。
終
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