1 こぎつね

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 日が傾きかけた頃に到着したのは、開けた盆地の真ん中に立派な館があり、大小とりどりの建物が囲む場所であった。  後から考えると、まるで人間が暮らすような、ひとつの集落であった。  わたしは感嘆の声をあげた。走って来た疲れも一瞬で吹き飛んだ。  両親は迷わず大きな建物にむかった。そこは赤々とかがり火に照らされた頑丈な門が立ちはだかり、老いた狐の門番がいた。  狐の両親が門番の前に座り(こうべ)を深々と下げると 「ご苦労であった。この子狐はたしかにあずかるぞ」門番はそう云ったように思った。  両親はあっけにとられているわたしを振り返り、名残おしそうに、ほおから首、そして胸のあたりまで、ていねいになめると、一瞬だけ目を覗き込み、その後唐突に体を反転させ、走り去った。  ケーン、と一声、おかあが鳴いた。  これが両親との永遠の別れだった。  わたしは、置き去りにされたことは少し悲しかったが、しかしそれ以上に好奇心がまさったのだろう。  ここではわたしの「なぜ」に答えるものがあるに違いない。わたしの「なぜ」を解決するために、両親はここに連れてきてくれたのだ。そういった確信があったから。
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