8人が本棚に入れています
本棚に追加
日が傾きかけた頃に到着したのは、開けた盆地の真ん中に立派な館があり、大小とりどりの建物が囲む場所であった。
後から考えると、まるで人間が暮らすような、ひとつの集落であった。
わたしは感嘆の声をあげた。走って来た疲れも一瞬で吹き飛んだ。
両親は迷わず大きな建物にむかった。そこは赤々とかがり火に照らされた頑丈な門が立ちはだかり、老いた狐の門番がいた。
狐の両親が門番の前に座り頭を深々と下げると
「ご苦労であった。この子狐はたしかにあずかるぞ」門番はそう云ったように思った。
両親はあっけにとられているわたしを振り返り、名残おしそうに、ほおから首、そして胸のあたりまで、ていねいになめると、一瞬だけ目を覗き込み、その後唐突に体を反転させ、走り去った。
ケーン、と一声、おかあが鳴いた。
これが両親との永遠の別れだった。
わたしは、置き去りにされたことは少し悲しかったが、しかしそれ以上に好奇心がまさったのだろう。
ここではわたしの「なぜ」に答えるものがあるに違いない。わたしの「なぜ」を解決するために、両親はここに連れてきてくれたのだ。そういった確信があったから。
最初のコメントを投稿しよう!