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「さあ、選ばしこぎつねよ、この奥に進むのだよ」
門番の言葉に従い、わたしは進んだ。
門から大きな館に向かう、両脇にある狐火のかがり火が煌々と照らす道は、つるつるとしていて、まるで水の上を歩いているようだった。
わたしはすごくわくわくしていたように思う。
子供とはみんなそういうものだ。自分が中心で世界が回っている。
自分はどんなことでも出来る。これをしたら、次はこれをしよう、何だってできるという根拠のない自信、子どもはそんな好奇心を糧に生きている、そういう存在だ。
わたしもその頃は、たしかに子供だった。
奥にどんどん向かうと、重そうな銅の扉が開いていて、その先には階段がある。手すりは朱色で、さらに同じ色の欄間をくぐりぬけると、正面の一段上がった場所に板敷きの広い部屋があった。
そこには薄い布をふわりと体にかけた年寄りの女狐が座っていた。
燭台の灯が、後ろ向きの狐の頭部を照らす。まるで、たてがみのような、ふさふさとした毛が顔を覆い、その豪華な銀の毛並みに、思わずわたしは息をのんだ。
この狐は、おとうやおかあのような野狐ではない、直観的にわたしはそれがわかったのだ。
「あのぅ」
わたしの口から自然に言葉が出た。
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