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女狐は振り向いた。
そしてすぐに、その目がわたしを捉え細められた。獲物を狙うときの目だ、とわたしは思う。
「おお、新参者か、ひさしぶりじゃ」と云われ、わたしは少しドキリとした。
「あのぅ」と、何を話したらいいのかわからず、もう一度云った。
「おまえは先ほど、ここに着いた者だね」
「うん」
「これぞ吉兆……」
わたしは、その言葉がわからなかった。
女狐は頷くとわたしに話しかける。
「門番はなにか云っていたか」
「奥へいくように……」
「その前だよ、お前の親御にさ」
「えーと、ご苦労だった、と」
「お前の親御は聞こえていたかねぇ」
「それは……おとうもおかあも、どっちも耳の聞こえは良いけど、野山でどんな音でも聞き分ける耳だし、でも、あの門番さんが云ってることは……」
「親御は門番の云ってることがわからない、でも、おまえはわかる。わかるっていうのは良いことだ、だから吉兆さ」
「……」
いいこと、いいこと、おまじないの様にわたしは唱えた。いいことなんだ、と。
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