1 こぎつね

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 女狐は振り向いた。  そしてすぐに、その目がわたしを捉え細められた。獲物を狙うときの目だ、とわたしは思う。 「おお、新参者か、ひさしぶりじゃ」と云われ、わたしは少しドキリとした。 「あのぅ」と、何を話したらいいのかわからず、もう一度云った。 「おまえは先ほど、ここに着いた者だね」 「うん」 「これぞ吉兆……」  わたしは、その言葉がわからなかった。  女狐は頷くとわたしに話しかける。 「門番はなにか云っていたか」 「奥へいくように……」 「その前だよ、お前の親御にさ」 「えーと、ご苦労だった、と」 「お前の親御は聞こえていたかねぇ」 「それは……おとうもおかあも、どっちも耳の聞こえは良いけど、野山でどんな音でも聞き分ける耳だし、でも、あの門番さんが云ってることは……」 「親御は門番の云ってることがわからない、でも、おまえはわかる。わかるっていうのは良いことだ、だから吉兆さ」 「……」  いいこと、いいこと、おまじないの様にわたしは唱えた。いいことなんだ、と。
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