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一週間前に僕の会社は倒産した。
そんなに酷いものでも無くて、どうにか給料も最後まで払われ続けて、ほとんどの人間が再就職先を見付けていた。
他人事なんかじゃない。僕はその会社の経営者の一員で仲間内と大学時代に作った会社だった。
なんとか従業員を守れたのは良かったが、自分の未来なんてものは無い。これまではかなりの年収が有って高級マンションに住んでいたが、そんなものも既に解約してしまって残っていた財産も会社経営に使ったので預金なんて無かった。
一つ間違えなくても今の僕はホームレスになっている。ネカフェを巡ってどうにかその日の屋根を探しながら次の仕事を探しているが、住居も無いと仕事なんて無くて、さらにこれまでの実績からまた稼ごうと思っても、会社と言う後ろ盾を無くした僕から取引相手は手を引いてしまった。
会社は共同経営の友人が使い込みで倒産してしまったので、そんな所も僕の評判に傷をつけていたのだろう。そして従業員を守った事も美談にはなるが、経営者としては自分を守れなかった事がデメリットに働いている。
もう今日の宿に払う程のお金も厳しくなっていた。なので、ふと他のホームレスと同じ様に街中に座ってみた。
すると道行く人は僕の事をさげすむ様に見て歩いている。その姿には笑えた。僕がこれまで贅沢をしながらもそれでも社会の為に働いて、その功績で収入が増えたのに社会はこんな僕を簡単に見放した。
これからどうしたら良いのか本当に解らない。みすぼらしく汚いホームレスに交じるしかないのか。それともどうにか低賃金でも良いから仕事を手にして生きるべきか。本当ならもう一度僕の力で社会の役に立ちたい。
けれど、どれも難しいのかもしれないから僕は最悪の終わり方まで考えていた。そうしていると当然ながら段々と前を向いていられずに項垂れてしまう。もう誰の事も目に入らなくなって自分の足元だけを見ていた。
それなりに高かった靴が見えてこれを売れば一晩の眠る所暗いは得られるかもと思ったその時に、僕の靴の横にスニーカーが現れた。
俯いた僕の視界に入るくらいなのだからその持ち主との距離はかなり近い。僕はやっとの事で視線を挙げるけれど、昼間の太陽がまぶしくてその人の顔が見れなかった。
「こんな所に居たんですね。ホームレスなんて似合いませんよ。さあ仕事を始めましょう」
元気の良いその声には聞き覚えが有った。それは僕の会社で下っ端っとして働いていた子だった。特に重要な仕事を任せた訳でも無くて雑務ばかりを喜んでしている人間で、それでも良く働いていたから僕が優先的に再就職先を探した人物だった。
確かこの子には取引の有った優良な会社を紹介していて、当然雇ってもらえる様にしていたが、その結果までは他の人間の就職先を探すのに忙しく知らないが、美味しい話なのだから蹴る筈はないだろうと思っていた。
しかし、仕事と言う。そして僕の手を引いて走り始めた。僕は母親に手を引かれる子どもの様に走って小さくて古臭いけれど小綺麗にされたオフィスに着いた。そこには僕の会社で働いていた優秀な人間が集まっていた。
この者たちは再就職なんて簡単に自分で見付けてしまうだろうからと安心して僕は配慮しなくて当人たちにもその事を伝えていた人ばかり。
そこで説明されたのはみんなで話し合い、お金を出し合って自分達で会社を起こしたと言うのだ。そして皆と下っ端の子の強い要望で僕もその新しい会社に招きたいとの事だった。
こんな惨めな負け犬を彼らは喜んで探し、待って、迎えてくれた。
断る理由も意見も見当たらなくて、僕は彼らの要望に応えて一緒に働く事にした。
ホームレスとなって道端に座ってから3年が過ぎた。
元々集まったのは僕の会社でも有望な人間ばかりで、そして僕も負けじと働いたら新しい会社はグングン成長して前ほどではないが収入も有って充実している。
僕はあの日座り込んだ道端を訪れて地面を見詰めていた。そんな僕の横にはあの下っ端の子が居る。この3年僕のアシスタントパートナーとして優秀な働きをしてくれて、それは僕の再成功のキッカケになってくれた人だ。
本当にあの時にこの子が居なければ今僕はこの世界に居なかっただろう。かけがいの無い人で最高の仕事仲間だった。
けれど僕はその子のランクを一つ上げようと思っていた。これまでは優秀な仕事仲間だったけれどこれからは僕の妻になってほしいと思ったので彼女には救われたこの場所でプロポーズをしたいと思っていた。きっとそれも叶うだろう。僕たちは最高の二人と言えるから。
おわり
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