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謀①
翌日、いつまで経ってもレインは執務室に姿を現さなかった。無断欠勤だ。レインが従僕として働き出して初めての事だった。
昨夜はレインの言葉の意味を消化しきれず、悶々としたまま一睡もする事ができなかった。
だが、眠気よりも心が凍ったように冷たく辛い。それでも魔王の私にはやらなければいけない事は山のようにある。
私はレインの無断欠勤には一切触れる事なくただ黙々と仕事をこなした。
そんな私をちらちらと見る宰相。勿論気づいているが気づかないフリをした。
が、とうとう宰相が痺れを切らしたようだ。
「魔王さま、あの真面目の塊のレインが無断欠勤などと何かあったのでは?」
宰相は本気で心配しているようで、私に見て来いと目が訴えている。好意を持っているはずの私がレインの無断欠勤に対して何の反応も示さない事で私たちの間に何かがあったと思ったのだろう。そして原因は私にあると思っている。
だから自分のケツは自分で拭けという事だ。
宰相は血縁者のいない私を小さい頃から面倒みてくれていて親代わりのようなもので、時々そういう厳しさを示す。
「レインは少し働き過ぎなのだ。たまには休む事も必要だと思わぬか?連絡は――きっと忘れたのだろう。あいつも抜けたところがあるのだな。次に会ったら揶揄ってやろう。くくく…。―――レイン一人いなくとも何とでもなるのだ。構わず放っておけ」
もっともらしい事を務めて明るく言った。
私の言葉に不満気な宰相だが魔王である私にこう言われてしまえば普通はそれ以上何も言う事はできない。
だが、この宰相はさっき言ったように普通ではなかった。
溜め息をひとつ吐くと宰相としてではなく親のような顔になった。
「いい大人なんだから拗ねるのも大概になさい。―――あなたは本当はどうしたい?」
ハンマーでガツンと頭を殴られた気がした。
俺は拗ねていたのか…。
だとしたらいい歳をして情けない。
宰相のおかげで少しだけ冷静を取り戻す事ができた。
昨日のレインの話、落ち着いて考えればレインが私の事を裏切っているとしても、何か理由があるはずだ。そうでなければ涙など流すはずがない。
それなのに私は『裏切っている』という言葉だけで自分のレインへの想いまでも嘘にされたと思ってしまった。
それに気づいてしまえばもう無視なんかできない。
ガタンと勢いよく席を立つと宰相は笑顔でいってらっしゃいとひらひらと手を振った。
本当に宰相には敵わない。
笑顔で頷くとレインの部屋へと向かった。
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