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謀②
ノックをするが反応がない。
レインは仕事をしていない時は殆どの時間を自室で過ごす。今日のレインは普段の行動とあまりにも違いすぎていて急に焦りを感じた。
ドアに手をかけ「すまん」と心の中で謝り無断で部屋に入ると、あるはずの物がなかった。チェストの上の魔王人形だ。レイン人形はあるのに魔王人形だけがない。
焦りが不安に変わっていく。このまま会えないなんて絶対に嫌だ…。
空振りに終わるかもしれないがイチかバチかにかけてみる事にした。
魔王人形に意識を飛ばすのだ。
レインが持っていてくれているはず…。
祈るような想いで意識を飛ばした。
するとそこは暗闇の中だった。
真っ暗で何も見えない。そして、ピクリと壁が動いた気がした。
ここはどこだ…?レインはいないのか…?
神経を集中するとぼそぼそと話声が聞こえて来た。
「―――で、本当に魔王は現れるんですか?」
「当たり前だ。何のためにレインを潜入させたと思っている。すでに魔王はレインにメロメロだ。レインを攫ったと置手紙は残したんだ。必ずヤツはやって来る」
「のこのこ一人で現れたところをこの剣でバッサリってわけだ」
―――!?
「そんなにうまくいきますかねー?」
「いくに決まってる。なぁレイン?」
「………ああ」
そう返事をしたのは確かにレインの声だった。
レインは誰だか知らないが男たちと一緒にいるようだ。
私の暗殺計画を話す三人の男たち。
胸がざわつく。
「これで魔王も――――」
そこで話が途切れた。何かあったようだ。バタバタと男たちが出て行く足音がした。
レインも行ってしまったのだろうか。
―――これが裏切っていると言った意味か。
心のざわつきが強くなるがすぐに思い直す。
しかし思えばレインが私にあたりがきつかったのは私に嫌われる為であったのではないのか?
どう考えても男が言うように篭絡された覚えはない。どちらかといえば遠ざけようとしていた。
私のこの気持ちはレインに誘導されたものではなく、私自ら抱いたものだ。
それに私の人形だけを持ち出した意味―――。
「――あなたは…バカだ…」
―――レイン?
すぐ傍からレインの声が聞こえた。怒ったような泣いているような声だった。
壁だと思っていたのはレインだったのか。
男たちに聞こえないようになのかぼそぼそと小さな声で更に続けた。
「あなたも聞いていたでしょう?僕は…アイツらの仲間なんですよ?だから僕は大丈夫…なんです。どうか…すぐにお戻りになって…、僕のような者の事などお忘れになって…下さい」
それきりレインの声は聞こえない。
言いたい事は言い終えたとでも言うのか。
私は意識を本体へと戻した。
レインは私を殺そうとしている連中と仲間だった。
だがレインは私に来るなと言った。自分の事は忘れろとも。
殺そうとしているのに殺されるから来るなと。
言っている事が矛盾している。
レインに殺したい程憎まれていない事にこんな時なのに嬉しくて、口元が綻ぶ。
それにしても、レインは私が人形に意識を移した瞬間身体を揺らした。最初から私が人形の中にいる事に気づいていたという事か。
レインの部屋に私が人形を置いた事も夜な夜な人形の中に意識を移して見ていた事も―――そして昨夜のあの言葉。
部屋にはいくら探しても男が言うような置手紙なんかなかった。
私に来させないようにレインが始末してしまったのだろう。
レイン、ああレイン。愛しのレイン。
こんなに愛を示してくれているのに私にお前への愛を告げる機会すらくれないというのか。そんな事は私は赦さない。
どんな事をしてもお前の元へ行き、私の愛を分からせてやる。
こんな事ぐらいで私の愛は揺らぐものではないという事をしっかりと教え込まなければ。
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