えぴろーぐ

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えぴろーぐ

それからほどなくして私たちは結婚した。私たちには父も母もすでにいない。だから親族席には宰相がただ一人座っているのみ。 少し寂しく思うが私はそれ…いや、それいいと思った。 いつも厳しく導きながら温かく見守ってくれた宰相。私にとっては父のような存在だ。他に並び立つ者などいるわけがない。 ちらりとレインの方を見やると、嬉しい事にレインも同じように思っているらしく、式の間中顔をぐちゃぐちゃにして泣き続ける宰相を親に向けるような瞳で見つめていた。 私にとってもレインにとっても『家族』ができたという事か。 お互いがお互いにとって唯一無二で、まだ未熟な私たちを見守ってくれる厳しくも優しい宰相()。それと愛しい国民(子ども)たち。 そう思うと妙に気恥しくくすぐったい気持ちになった。 そんな気持ちを誤魔化すようにレインの頬を伝う涙をハンカチで拭うと、出し物で曲芸をしてくれている配下たちを指さし、レインと二人微笑みあった。 そうして幸せに包まれたまま結婚式は終わった。 ***** 結婚前夜レインは全てを話したいと言った。どうしても伝えなくてはいけない事があると言うのだ。 レインはコボルトと人間のハーフという事もあり人間の国で酷い扱いを受けていたらしい。そこから救い出してくれたのがあの時話していた三人で、魔王討伐隊の中心的存在だったそうだ。あの三人は人間を根絶やしにしたいが魔王がそれを許さないと、魔王は人間の味方でお前のようなハーフ魔族が人間にひどい目に合わされている事も知っているし、魔族の住む国の平和の為にむしろ差し出しているのだと聞かされたと言う。 だから魔王を討つ話にのったのだという事だった。 だが実際私の傍で従僕の仕事をしながら徹底的に調べ上げてみると、私は少しさぼり癖はあるもののちゃんと魔族全体の事を考えており立派な王であると感じたと。 あの三人の言う事に疑いを感じ始めた頃あの人形が自分の部屋に置かれており、自分たちの計画がバレて警戒されたのかと思って焦ったと。 次に自分の人形が置かれたのを見て自分の気持ちに気づいたという事だった。 憎むべき存在を愛してしまっていた。 だから人形に私の意識があることに気づかないフリで警告した、と。あの者たちと差し違えてでも私を守るつもりだったらしい。 ちなみにレインは魔力感知に長けており、人形の中に私の意識が夜な夜な移されている事にやはり最初から気づいていたそうだ。 確かに私は人間の国に攻め入ろうとは思っていない。 かと言って仲良くしようとも思っていない。要するに住み分けだ。 お互いがお互いの領域から出なければ争いは起こらない。 人間と戦争になったら私一人でも人間を根絶やしにできる自信はある。 が、そんな事をして何になる? 私は力のない者をわざわざ自分から踏みつけて悦ぶ趣味は持ち合わせていないし、そんな面倒な事をしたくはない。 だが、レインのようなハーフ魔族が人間によって虐げられていたとなると話は別だ。 私は魔王だ。知らなかったでは許されない。 レインと話し合って戦争ではなくハーフ魔族を救出するという事で話は落ち着いた。それと警告として人間の王の若さを20年ほど奪った。 レインが虐げられていた年数だ。国王は突如現れた魔王に強者により理不尽に奪われる痛みを理解させられた。 王は年老いた姿にしばらくの間言葉を失っていたが、命を取ったわけではなかったのでそこまでひどい恨みはかっていない。 国交も完全に閉じてしまったのでただ恐怖だけを胸に刻み、これから先は魔族やハーフ魔族に対して虐げる事はないだろう。 これは魔王にも人間の王にも一生消えない傷を残す出来事だった。 今回の件の詳細は秘密だ。宰相だけは何かしら勘づいていそうだが話すつもりはない。レインへ少しの疑念も抱かせたくはなかったからだ。 保護したハーフ魔族たちも自ら語る事はないだろう。これは私自身への戒めであり、私とレインと二人だけの秘密だ。墓場まで持って行くつもりだ。 ***** レインの支えもあり私が魔王でいた期間は歴代の魔王の中で一番長く、魔族の国は一番の繁栄を見せた。私との約束を十二分に守ってくれたわけだ。 それに加え、もう一つの約束の方も守り随分と長生きをしてくれた。 だけれど天命には抗えずつい先日眠るように息を引き取った。 最愛の人を亡くしても悲しみに支配されることは無かった。 私ももうじき命の灯は消えてしまうと分かっていたからだ。 私の選択は間違っていなかったのだと私を見送る者たちの顔を見て思った。 彼らはいつも幸せそうに笑っていた。その笑顔が私たちに力をくれていた。 私たちがいなくともお前たちには新しい魔王がいる。手を取り合って共にもっともっと幸せにおなりなさい。 私に似た角と赤い瞳、レインに似た茶色の髪を持つ青年の頭を優しく撫でた。 そして笑って欲しいと自らも微笑む。 息子のぎこちない笑顔にまだまだだな、と苦笑しているとふいに愛しい人の気配を感じた。 ああ、愛しい人が迎えに来てくれた。 自然と笑みが零れた。 世界の終わりは世界の始まり。 私は微笑んだままゆっくりと瞳を閉じた。 -Fin-
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