初恋は暗闇の中

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初恋は暗闇の中

陽菜(ひな)ってさあ、好きなやついんの?」 「ぶへっ!」  唐突にかけられた言葉に、私は思わずミネラルウォーターを噴出していた。汚ねー噴水!と笑っているアホは、私の小学校時代からの幼馴染である。 「ちょっとお、綺斗(あやと)!」  非難の声を上げてなお、愉快そうに笑い転げる少年。ちょっと顔がいいからって調子に乗りおってからに。私はすぐそこにあった筆箱で、ポコンとドアホの頭を叩いていた。ちなみに、袋状の筆箱ではなく、昔から使っている固いやつである。結構いい音と共に、いってえ!という綺斗の悲鳴が響き渡った。 「何すんだこの暴力女!」 「セクハラ男に言われたくないですー。今のご時世、異性に好きな相手を訊くだけでセクハラになるんですー」 「はあ?中学生の軽口程度でセクハラかよ、そういうのジイシキカジョーってんだろ。大体、こんなやり取り小学生の頃からやってんじゃん俺ら」 「だからって、みんなの前で尋ねるのがセクハラだろが!ちったあ空気読め!」  ちなみにここ、中学校のサッカー部の部室である。打ち合わせがあるため、部員全員でミーティングルームに集合したのだ。が、顧問の先生が事情に遅れていて、待ちぼうけを食らっている状態である。ただでさえ集中力が足らない者同士、そりゃほっとかれたらお喋りに興じるようになるのは仕方のないことだろう。  ちなみに目の前の幼馴染は二年生のミッドフィールダー、私はマネージャー。あくまで、サッカー部のマネージャーであってコイツ専門のマネージャーではない。そのわりに、小学校から同じノリでパシリに使われ続けている気がしないでもないが。 「何々?なんか面白い話してる?」 「コイバナと聞いて!」 「げ」  ほら見ろ言わんこっちゃない。わざわざこっちの方まで席を移動してきた輩が約二名。三年生で副部長のこーちゃん先輩こと幸輔(こーすけ)先輩、それから一年生の悪ガキウィングバック、まるくんこと丸夜(まるや)少年だ。どっちも綺斗とは仲良しであり、よく私をいじってくる二人である。 「面白い話なんかしてないですちゃんと席戻ってくださいていうか戻れ」  先輩相手だろうがなんだろうが、こういう時に容赦はしなくていい。元々フレンドリーで、あまり年齢による上下関係を重視してない部活である。私が容赦なく言い放つと、こーちゃん先輩とまるくんは揃ってぶーぶーとブーイングを放ってきた。兄弟かお前らは! 「いやだって、陽菜ちゃんの好きな人って言ったら、ねえ?気になるじゃん?」
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