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ピンポ~ン。
のんびりとチャイムが響いた。リュウは怒りにまかせて勢いよく扉を開けた。
「ごめんね、遅くなって…」
思った通り、済まなさそうに微笑むレイが立っていた。
「何時だと思ってるんだよ! お祝いだから、寄り道せずに帰ってこいって言ったのはレイだろっ!」
リュウが大声で怒鳴った。
俺のお祝いだから、レイが準備するもんじゃないのかと文句を吐きながらも、料理を作りテーブルを整えて待っていたリュウである。
なかなか戻らないレイに腹を立てていたのはしばらくのこと。あまりの遅さに何かあったんじゃないかと、胸の奥が締めつけられて、胃がきりきり痛んでいたのだ。
レイはそれほどきっちりした性格ではないが、傭兵だったときも、クーリエになってからも、リュウを不安がらせないために帰る時間だけは守ってくれていたのだ。
それでも、約束の時間を過ぎても帰ってこない日があって…。
そんな時、リュウは玄関の扉の前で膝を抱えて泣きながらレイの帰りを待っていた。
眠っているリュウを起こさないようにそっと開かれる扉。音もなく入ってくるレイに飛びついて、リュウは『どうして、こんなに遅かったの』と泣きながら問いつめたものだ。
もちろん、まだ小さかった頃のことだ。
そのたびに、レイは『ちょっと手間取っちゃって』とか、『思ったより遠くてね』とか、冗談めかしてごまかした。
そして泣きじゃくっているリュウの肩を抱き寄せて、『大丈夫だよ、リュウを置いていったりしないから』と。
リュウはレイに置いていかれる心配ではなく、レイの身に何かあって、二度と会えなくなるんじゃないかと心配していたのだ。だが、あたたかい胸に抱かれて、頭をくしゃくしゃなで回されているうちに不安が溶けて、そのまま眠りに落ちてしまうのだった。
でも、今ではリュウにもはっきりわかっていた。傭兵もクーリエも危険な仕事だから、ちょっとしたトラブルでも命を落とすということが。
レイが冗談めかしてごまかした出来事は、どれも命に関わるほど危険だったということが。
だから今夜も。レイの顔を見て安心した途端、急に怒りが湧いたのだ。泣きつくかわりに怒鳴っていた。リュウはもう、泣いてレイの胸に飛び込むほど子どもじゃないから…。
リュウは玄関の上がり口に仁王立ちしてレイを見下ろす。
「だから、ごめんって。遅くなったけど、お祝いしようね」
「料理なんて、もう冷めちまってるよっ」
続けて文句を吐いたところで、リュウは、レイの後ろの男に気がついた。男は人の良さそうな笑みを浮かべて、扉に手をかけて「よおっ!」と挨拶した。
「これでも、精一杯のスピードで帰ってきたんだから許してやれよ」
レイが誰かを家に連れてきたのは初めてだったからリュウは驚いた。
「レイはリュウに怒られる、って可哀想なくらい気をもんでたんだぜ。この男をあんなに動転させられるやつなんて、ほかにいやしないんだからな」
リュウは文句をぐっとかみ殺した。しぶしぶレイとその男を迎え入れる。
キッチンに案内して、料理の乗ったテーブルに椅子をもうひとつプラスする。機嫌が悪いから無言のままだ。すると、ちょっと困った顔をしたレイが紹介をはじめた。
「リュウ、一緒にクーリエやってるランディだよ」
「ランディ、これがリュウ」
ランディと呼ばれた男は相好を崩し、きらきらしたまなざしをリュウに向けた。
「よろしくな。それから、連合宇宙軍士官予備学校入学おめでとう」
「どうも。いつも兄がお世話になっています」
ぶっきらぼうに言い放ったリュウを、ランディは面白そうに眺めている。
「しっかし、イメージ狂うなあ。話を聞いてると、小さくて頼りない子どもだとばかり思ってたぞ。それなのに、体格いいし一人前の男じゃないか。身長どのくらいある」
「レイよりは高い」
「だよな。それにハンサムだ。士官訓練センターに入れる年齢だってことは、立派なおとなだったんだよなあ」
しきりに感心する相手に、リュウはもちろん、とうなずいた。そんなリュウを横目で見ながらレイが言う。
「まだまだ世間知らずで、俺は心配だよ。リュウ、士官訓練センターはどうだった。ついて行けそう?」
もう連合宇宙軍の士官訓練センターに入る年齢だというのに、レイはリュウの中に幼い少年の面影を見ているのだ。おとなの男だなどとはまったく思っていないのがリュウは悔しかった。
――銃の腕は負けるけど、背だって高いし、力だって俺の方が強いのに――
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