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細身のしなやかなカラダを軽いスエットに包んだレイが、濡れた髪をタオルで拭きながら戻ってきた。
その優雅な仕草にどきりとしたのはリュウだけじゃなかったが、ブラコンと詰られたのが頭に浮かび、つい頬が染まった。
「なに? なんだか意味深だなあ。急に黙り込んで二人で見つめ合うなんて。俺ひとり、仲間はずれなわけ?」
「いやあ。今な、リュウがほんとは俺たちと一緒にクーリエをやりたいって話を聞いたとこだ。人手が足りないんだから、いいんじゃないの。あんたもリュウがいれば無茶はしないだろうし。俺は歓迎だぜ」
うれしそうなリュウを見て、レイがあわてて首をふる。
「ダメだよ。リュウに操縦まかせたりしたら、気になって宇宙船のなかでぼおっとできやしない。俺のくつろぎタイムを取り上げないでほしいね。
それに。リュウのミスで心中するはめになったら…、俺はあきらめがつくけど、ランディまで巻き込めないからね」
「こいつ、そんなに宇宙船の扱いが下手なのか? レイの最高の操縦に慣れた俺には、キツいかも…」
比べられてはたまらないとリュウが反撃する。
それでも、素人ながらリュウは、先日、クリスタル号に乗ったときのレイの操縦の腕に驚かされていた。
「初心者なんだから、しょうがないだろっ」
「リュウにはクーリエは向いてないって。とにかく、まずは、士官訓練センターでしっかり腕を磨いてもらおうね」
決めつけるレイに、ランディが訊く。
「なあ、いつリュウが操縦する宇宙船に乗ったんだ?」
「しばらく前に休みを取っただろう」
「リュウが冬休みだからって、あの時か」
「そう。よその星系へでも遊びに行こうと思ったら、どうしても操縦を教えてほしいと言うもんだから…。クリスタル号でしばらく付き合った」
「それで?」
「怖かった。死ぬかと思った!」
「レイを怖がらせるなんて、すごいぞリュウ。めったにない!」
ランディがふざける。
「ミスばっかで悪かったよ。でも、初めてだったんだから仕方ないだろ」
「おまえ、どんな失敗をしたんだ?」
「小惑星帯で浮遊物にいっぱいぶつかった。惑星はよけたけど…」
小さな声で応えたリュウにランディ大げさに驚く。
「げっ。小惑星帯ッ! よく命があったな。レイ、初めてのモンにゃ小惑星帯は無理だろう」
「俺が横について、いざという時に備えてた。それに、小惑星帯でも端の方で惑星がまばらなところだし…。2~3日、宇宙船を動かす練習してから行ったんだけどね」
無茶なことをすると驚きから立ち直れないランディに、レイが言い訳をする。
「俺なんて、初めて宇宙船に乗ったときから実践だったよ。ミスなんてできる状況でもなかったし、きっと許してもらえなかった」
「……、普通は、小惑星帯へは入らないだろう。宇宙軍の軍事教練でも最終段階じゃないか? あんたは天才だから平気だろうが、小惑星帯は避けて通るのが常識だぜ」
「どうせ、好んで小惑星帯に入る俺には常識がないよ。でも、なんにも障害がないところを飛ばしてるだけじゃ、退屈で、退屈で…」
「そういう問題じゃないだろう。命にかかわるんだ!」
ランディに怒鳴られたレイは、大きな溜め息だ。
「俺は人に教えるなんてガラじゃない。それはわかってるよ。一度で懲りてやめたんだからいいだろ…。リュウは士官訓練センターで、みっちり鍛えてもらうといい」
「あ~あ、レイの俺への評価はそこまで低いのか」
リュウは情けなくなった。この分じゃ、レイの宇宙船にはなかなか乗せてもらえそうもないと思う。
いつになったら、ランディみたいに仲間として認めてもらえるんだろうか。
「どうせ俺は下手くそだよ。二人して、勝手にけなせばいい。明日の朝も早いし、俺はもう寝るからな!」
悔し紛れの台詞を残して、リュウは自分の部屋へ向かった。レイが「おやすみ」と手を振ったが、扉はパタンとしめられた。
部屋に入ったリュウは、どさっとベッドに身体を投げ出した。ワインのせいか頭がくらくらしていた。
レイはいつも笑ってごまかすけれど、クーリエは危険な仕事なんだ。そんな思いが胸をかすめる。
──レイが危ない目にあうなんて耐えられない。でも、今の俺には何もできない。危険な場面でレイと一緒にいることさえ──
酔いのまわった頭でそんなことを繰り返し考えているうちにリュウはすっかり眠り込んでしまった。
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