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プロローグ
短い黒髪にちらほらと混じる白髪、ひげを蓄えた厳めしい顔付きの男が、マホガニーの机の後ろから立ち上がった。
シルバーのジャンプスーツに身を包み、直立不動の姿勢を保つ若者の前につかつかと歩みよると、その顎をぐいっとつかんだ。
「報告の前に訊こうか、プリンス。わしの命令を覚えているのか」
「はい、総督」
「復唱してみろ」
「われわれのところから盗まれた荷を取り戻せ。そして、乗組員は全員消せとお命じになりました」
男は若者の後ろを手で指し示す。
「わかっているなら、おまえの後ろにいるのは何だ?」
「まだ、子どもです。それに乗組員ではなく捕らわれていた…」
言葉が終わらぬうちに、男の手が若者の左頬を張った。容赦のない一撃に隠れていた背が大きく崩れる。しかし、若者は素早く立ち直り、踵をきちんと付けて元の姿勢に戻った。
「言い逃れはやめろ! わしの命令は絶対だ。おまえもわかっているはずだ」
「はい…」
素直に返された応えに満足したのか、男は口元をにやりとうす笑いの形に歪める。
「おまえがわしに逆らったのは初めてだ。本来なら懲罰の対象だが特別に許してやる。そのかわり、いま、ここで、そいつの始末をつけろ」
そう言うと、すごみのある目で若者を睨みつけてから、震える僕を小動物でも見るような目で見つめた。
若者の手が、腰のホルスターに収まっていたレーザーガンへと伸びる。くるりとこちらを振り向いた若者のエメラルド・グリーンの瞳には、凶暴な光が踊っていた。僕はそろそろと後ずさりながら、その表情を呆気にとられて仰ぎ見る。
優雅な動作で持ち上げられたレーザーガンが、ピタリと額に狙いをつけた。
怯えてしまった僕は、動くことはもちろん、悲鳴さえあげられない。
「顔色ひとつ変えずに処刑を遂行するとはさすがだな、プリンス。海賊団『コスモ・サンダー』いち冷酷だという評価もだてではない。もしかしてわしを楽しませるために、それを生かして連れてきたのか」
満足そうな声音だ。
「そんな趣味は、ありません」
冷たく乾いた言葉とともに、プシュッと音がしてレーザーが煌めいた。
……俺は、いつかこんな日がくるんじゃないかと思っていた。
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