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1 不良品
「暇ですねぇ」
アキラはスマホから目を離し、「ンー」と唸りながら、伸びをした。年頃の女性がすると可愛らしい仕草だと思うのだが、アキラがするとどうもオッサン臭い。
恐らくあのツナギがいけない。いくら動きやすさが大事な職種とはいえ、どこの現場に行くんだ?という、使い古した作業着はない。いくら可愛らしい顔がのっていても、女の子らしさは皆無だった。
だいたい、ツナギではトイレに困るだろう。一度そう言うと、すごい目で睨まれて、「セクハラ」とぼそりと言われてしまった。
まったく、生きにくい世の中だ。
「俺たちが暇なのは、結構な事じゃないか。バケモノたちも無事。クラッシュの心配なし。世の中平和で何より」
俺が昼飯であるカップラーメンの汁をすすりながら、そう言うと、アキラは鼻を鳴らした。
「安易にバケモノにならなきゃいいんですよ」
テレビの時報が正午を告げ、お昼のニュースが始まった。
数日前にあった、強盗傷害事件の続報だ。独居老人宅に男が押し入り、住人を脅し、金品を強奪した。被害者は九十代と言っていたから、ロクな抵抗もできなかっただろうに、犯人はわざわざ切りつけて怪我を負わせていた。被害者は重傷と言っていたから、ひどく切りつけたのだろう。
その犯人が捕まったらしい。何度もこの手の犯行を繰り返している男で、懲役刑を終え、出所したばかりだという。
俺はテレビを顎でしゃくった。
「ほら、この男だって、ロストアンガーを受けてりゃ、被害者のじいさんは、こんな目に合わなくて済んだだろ?」
そう言ってやると、アキラは聞こえよがしに舌打ちして、またスマホに目を落とした。
全く可愛げがない。この間は、現場でビービー泣いてたくせに。
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