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精神科閉鎖病棟。
今、お母さんは此処にいる。
中までは入れないから、受け付けの人にミニバラを託す。
「 これ、卯月紀恵に渡してもらえますか?誰からとは、言わずに 」
「 分かりました。お預かりしますね 」
「 はい、よろしくお願いします 」
俺は、過去がどうあれあの人に引き取られない限り、生涯を誓うような人と出会わなかっただろう。
「 お疲れ様。帰ろうか 」
「 そう、だな… 」
ニッコリと変わらない笑顔を向けた金色の髪に、青い目をした愛しい人を見た後に、ふっと感じた視線に顔を上げる。
此方を見ていた人へと、何となく片手を上げれば、嫌そうに窓際から離れた為に笑みが溢れる。
「 アラン…。俺は、子供が欲しい。でも、それはお前の身体に負担になるだろうし、俺が上手く育てれるかも分からない…けど、俺は父になりたいと思う 」
「 フフッ、君ならきっといいパパになれるよ。俺も子宮が使えるようにしなきゃなー。元気な子を産めるよう頑張ろっ 」
俺達はまだまだ、他人には理解できないだろう、秘密も、問題も多く抱えてる。
けど、それ等を嫌だとは思ったこと無いし、過去を恨むことは…もう無い。
受け入れて、未来へと希望を持つ。
「 子供が出来たら、めちゃくちゃ可愛がろう。抱き締めて、キスして、嫌がられるぐらいに 」
「 嫌がられない程度にしなきゃ…本気で嫌われちゃうよ?パパ嫌いーって 」
「 其れもそれで嫌だな。愛情って難しいんだな 」
「 そうだねー。凄く難しい課題だよ 」
お母さんがくれた愛情は、確かに違ったかもしれない。
けれど゙ 殺さない ゙という選択肢は嬉しいと今じゃ思う。
TVでは虐待され、命を落とす子がいる。
それを見てると俺はまだ、愛されていたんだと自覚するんだ。
子供の命を取る親は…もう親とは呼べないと思うから。
俺はその点、不器用な優しさを向けられていた、愛されBoyなんだろうな。
あの日、あの時期、全てが運命でない限り、俺は愛する者と出会う事も、お母さんを許そうとも思わなかっただろう。
殺したい程に憎むはずの人に、そんな恨みを持つ必要がないほど、俺の気持ちを受け入れてくれる人達が現れた。
生きていたから今の妻がいる。
生きる事を諦めたなかったから未来がある。
俺を殺さなかった事には感謝しかない。
「( まぁ、一度ぐらいは抱きしめてほしかったけど… )」
窓ガラスの方へと視線を向け、二度と叶うことない願いを思うが、
その分…この愛情は、次の誰かに渡そう。
白髪は風によって揺れ、左ハンドルの車へと乗れば、アランは助手席へと座る。
「( 母さん、また来るから。それまで元気でな )」
母の日に送ると機嫌悪くなるから
母の日をずらして渡すのが俺達流なんだ。
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