履き違えた愛

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暴言は照れ隠し、痛みは愛情。 そう知れば殴られても、蹴られても、 俺は、小さく笑っていた。 「 ゲホッ、ははッ…… 」 「 ホント、気持ち悪い。バケモノ! 」 泣く事が無くなり、全て笑いに変えて、 それを不気味がるこの人は、相変わらず変わることは無かった。 けど、幼稚園には行かせてもらえるようになり。 初めて、お隣さんに出会った。 「 この子はルイ、アランちゃん仲良くしてあげてね 」 「 わぁー!雪うさぎみたいにかわいいね!!よろしくね、ルイちゃん! 」 「 違うわ、男の子なの。ルイくんよ 」 この人には、もう…女の子は必要なかった。 あの男が求めていた、゙男の子゙が欲しかった、作ろうとしてた。 だから゙ボク ゙と呼ばせて少しでも女の子のように振る舞えば怒っていた。   この日を境に幼なじみとなったアランの前でも、私は…俺は、男の子として振る舞うことにした。 「 よろしくね、ルイくん! 」 「 ん、よろ、しく… 」 金色の髪に、青い目をした女の子。 アランは俺の容姿を褒めてくれた、初めての人だった。 彼の母親も優しくて、他人の優しさに消え掛けていた凍った心は溶けていく。 幼稚園のルールを何も知らない俺に、 ルールを教えてくれた。 食べ物を知らない俺に、 食べ物の良さを教えてくれた。 外で遊べない俺の為に 室内での遊びを教えてくれた。 幼稚園が楽しかった、 幼稚園に行ってアランと過ごす事が…。 家に帰れば暴力と暴言は続くけど 気にならないほどに、 幼稚園は楽しくて、行ける日は良かった。 けど、身体の傷が深い時は幼稚園は休みがちになる。 行けない日は、窓からアランの家の方を見ていた。 アランは俺の全てになった。 「 ルイくん、おはよーのギュー! 」 「 アラン……はよ 」 よく抱き着いてくるし、抱きしめてくる、 ハーフだから頬へのキスも沢山してくる。 最初は意味が分からなかったけど、次第に嬉しくなる。 「 アラン…ぎゅーとか、されると…このあたりが、ぽかぽか、するな… 」 「 でしょ!ギューもチューも大好きってきもちなんだよ! 」 「 だいすき…? 」 「 そう!アランね、ルイくん大好き!へへっ 」 胸の辺りを抑えた俺に、アランは頬を染めて答えてくれた。 その笑顔を見て、俺は初めてそっと身体に触れて自分から抱き締めた。 「 !! 」 「 オレも、アラン…だいすきだ 」 「 うん!! 」 将来お嫁さんになりたいとアランは言い始めた 大きくなったら、って俺は頷いた。 言い合う日が続き、 俺達は小学生に上がる。 「 ねぇ、お母さん…ちょっといい…? 」 「 なに? 」 「 だきしめても…いいかな? 」 アランは、大好きな人に抱き締められると嬉しいと言った。 だから、抱きしめて欲しい人に問えば、この人は靴を履き、俺の横を通り過ぎ、家を出た。 「 馬鹿言わないで、アナタなんかに触られたくないし、触りたくもないわ。気持ち悪い 」 「 そっか、ごめんな…。行ってらっしゃい 」 お母さん… 一度でも゙俺゙を見てくれただろうか? あの人の子供としてではなく、 一人の子供として……。 その後、お母さんは何度も警察のお世話になっていたし、あの男が来ることがなかったから顔も忘れていった。 アランとはずっと一緒に過ごし、 俺達は19歳の頃に英国で同性婚をした。 アランの故郷である、小さな白い教会で認めてくれた友人と、アラン側の家族のみで行った。 「 母の日……今年も、ミニバラかな 」    小学4年生の頃には完全に男になった俺 花屋へと足を止めれば、カーネーションより安いミニバラを見る。 お小遣いがなく、唯一ご飯代にと貰っていた金を削って、母の日にミニバラを買うのが、小学高学年辺りからの恒例となっていた。 一度も喜んで受け取ってもらったことはない。 けど、必ず渡している。 今年24歳になった俺は、植木に入った小さな青いミニバラを買って、ある場所へと向かった。
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