僕の王子様

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小さい頃、僕は家出をしたことがある。 子供の家出の理由なんて、たがが知れてる。僕の場合は『弟』だ。 弟が生まれてから、両親は僕を見てくれなくなった。 パパもママももう僕なんていらないんだ。 そう思っての『家出』だった。 ありがちだよね。 あれは雪がチラつくくらい寒い日だった。 僕はお気に入りのうさ耳が付いた白いマントを着て、何日も食べずに貯めたおやつと寒さ対策にブランケットを入れたバッグを持って、そっと部屋を抜け出した。 弟しか見ていない両親は僕が部屋から出ても全然気付かず、リビングで二人、弟を囲んで話している。 僕はそんなリビングの前を通り、ドアを開けて外へ出た。そして、そのまま走り出す。 やっぱり僕なんていらないんだ! 僕は涙をこらえて走った。 目的地は公園。 子供の家出なんてそんなものだ。ただ、子供は子供なりに考えていつもの公園ではなく、隣の隣の町の公園にした。 以前友達と一緒に秘密の探検をしていて見つけた公園だった。 あそこの公園には大きなキリンの形のすべり台があって、その下が入れるようになっているのだ。 走って走って、やっと着いた頃には辺りが少し暗くなっていて、公園には誰もいなかった。 もうみんなお家に帰る時間だ。 でも、僕は帰らない。 だって僕はいらない子だから。 そう思いながら公園の中に入り、キリンの滑り台へ向かった。するとそこには先客が・・・。 その子は僕よりもお兄さんで、キリンの中に膝を抱えて丸くなって座っていた。 僕がそこに入ろうと思ってたのに・・・。 どうしていいか分からず立っていると、その子が気がついて声をかけてきた。 『どうしたの?ここに入りたいの?』 僕がそれに頷くと、少しお尻をずらしてくれた。 入っていいのかな?と思ったら、お兄さんが自分の隣をぽんぽん叩いた。 『どうぞ』 僕は中に入ってお兄さんの隣に座った。 しばらく何も話さずにそこに座ってるだけだったけど、すっかり日が暮れるとそこはものすごく寒くなった。 僕は薄いけどとても暖かいブランケットを持ってきたのを思い出して、それをバッグから出すと肩にかけた。その端をお兄さんの方にも回して端を持ってもらう。 『僕も入っていいの?』 僕は頷いた。 『ありがとう』 にっこり笑ったお兄さんと僕はもっとくっついて、一緒にブランケットにくるまった。 誰もいない公園はひっそりとしていて、辺りは暗闇に覆われている。 僕は家出だけど、お兄さんは帰らなくていいのかな? そう思っていても僕は何も聞けなくて、ただただブラケットにくるまっていた。 『暖かいね』 お兄さんはふわっと笑って僕の肩に頭を乗せて目を瞑った。 今何時かは分からなったけど、少し前から僕の目もしばしばしていた。 僕もお兄さんに寄りかかって目を閉じた。 そのまま眠ってしまった僕が目を覚ました時、そこはもう公園じゃなかった。 僕たちはその夜のうちに保護され、それぞれの家に帰されたのだ。 僕が目を覚ますと、母が真っ赤な目をして泣いていた。父も目が赤い。 僕がいなくなったのに気づいた両親は一晩中僕を探していたらしい。 『ごめんなさい』 僕が謝ると、母はもっと涙を流して僕を抱きしめた。 『ママこそごめんね』 母はそう言うと、さらに抱きしめてくれた。 僕は子供心にいけない事をしたと思い、一緒にいたお兄さんのことを聞くことが出来なかった。 あのお兄さんも、お家に帰れたのかな? 暗闇の中でふわっと笑ったお兄さんは、すごくキレイだった。 また会いたいな。 会えるかな? お兄さん、王子様みたいだった。 僕のキレイな王子様。 お兄さんのことを考えると、僕は胸がドキドキした。
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