一日の終わり

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 一日が終わると、キリアンに紹介してもらった学生寮に早速入ることとなった。寮は完全に一人部屋がもらえることになる。晴太たちは荷物を預けていた自分たちの馬車のところに行き、下着や着替えなど必要最低限のものを故郷から持ってきたバッグをケンタウロスから、受け取った。早めに先輩の案内が終わった新入生もいるらしく、あまり混雑はしていなかった。 「キリアン先輩っていい人だよね。」  と晴太。まだ、入学式の前に同じ新入生の女子に絡まれたことや、午後の食堂でのことを思い出すと、胸がキリキリと痛んでくるが、それでもキリアンのような人が先輩でいてくれるということは心強かった。 「ああ、俺も正直まだ不安なんだけどさ。マウリアの出身なんて他に誰もいないからな。でも、ああいう人がいてくれたら、ちょっとは頑張れそうかなって思うよ。」  パンカジュも小さなリュックサックをケンタウロスから受け取ると、ポンと晴太の肩に手を置いた。 「ふん!またあんな無礼な輩がいたら、僕の魔法でボコボコにしてやる。」  オマールは鼻息荒く、息巻いている。周りには、うっすらと赤いオーラが全身から滲み出ている。魔導士が臨戦態勢に入った証拠である。晴太も、色さえ見えなかったものの、攻撃的な魔力を確かに感じ取った。 「お、落ち着いて。オマール。僕なら大丈夫だからさ。あんまり目立つと後々、面倒だよ。」 「晴太!お前はそんなに意気地の無いことでどうする!いいか、他の奴に自分のことを否定させたりしたら、怒っていいんだ。だから、お前はまんまとあの豚野郎にやられてしまうんだぞ!自分の存在を踏みにじられようとしたなら、戦え!」 「オマール・・・。」  晴太はある意味、デイブに襲われた時よりも強い衝撃を受けた。自分が我慢すれば良いと思って生きてきた晴太にとって、オマールの言葉は洗礼のようなものだった。 「はいはい、オマール君。落ち着いて。怒った顔もキレイだけど、怒らない方が可愛いよ。」  ニキアスがいきり立っているオマールをすっと抱き寄せ、ヨシヨシと頭を撫でた。晴太はそれを見て、何とも言えない複雑な気持ちになった。 「止めろ!僕に気安く触るんじゃない!!」  オマールが勢いよくニキアスをはねのける。なんとオマールのチョコレート色の頬がうっすらと赤くなっているのが分かる。 「ニキアス、また魅惑の魔法使ったでしょ。あんまり多用しすぎるのは感心しないよ。」  ヴィオラがクチャクチャとガムを噛みながら、冷静に指摘する。 「あはは、バレちゃったか。さすがヴィオラだね。」 「このお!」  オマールが魔法を使わずに、ニキアスをポカポカと叩いている。晴太は、自然と笑みがこぼれるのを感じていた。こう見えても、ニキアスが雰囲気を明るくしてくれたということが分かって、嬉しくなった。
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