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「落ち着いてください。新入生さん。」
晴太たちのグループを引き連れていたサジタリウスがいつの間にか近くまで来ていたのだ。サジタリウスの腕にも魔力が宿っているのだろうか。いつの間にか、パンカジュの目と腕に宿っていた魔法の炎が見えなくなっていた。サジタリウスのゴリゴリの筋肉とサラブレッドの下半身、冷たいナイフのような目を見ると、たいていの人は闘争心を無くしてしまうだろう。
「う・・・でも。」
パンカジュが鋭い目で女の子を睨んだ。
「そちらのお嬢さんもですよ。僭越ですが、わが校の生徒とは思えない言動はお慎みください。肌の色と魔力は無関係ですよ。今回の件は校長にご報告しますからね。」
「え、ちょ、ちょっと止めてよ。」
女の子が慌てて、サジタリウスに詰め寄る。
「ちょっとからかっただけじゃないの!!報告するようなことじゃないでしょ。」
「からかっただけではすみませんね。生まれ持ったものを侮辱することは、最も下劣な行為の一つですよ。少しでも誠意があるなら、この少年に謝ってはどうですか。」
サジタリウスの怜悧な瞳が少女をまっすぐに見据えた。
「は、はい・・・。ごめんなさい、私が悪かったわ。」
少女はシュンとしてしおらしく、うつむいている。
「あなたの名前はすでに、把握していますからね。報告はさせてもらいます。他の新入生も注意するように。」
周りで見ていた学生たちもざわざわと騒ぎ出した。これで少なくともサジタリウスの前で騒動を起こす学生はいないだろう。
「お、おい。そこまでしなくてもいいよ。僕もついカッとなっただけだよ。謝ったんだし、いいって。」
パンカジュが、さっきよりも少し柔らかい口調でサジタリウスを諭した。もう怒りは収まったようだ。冷静なサジタリウスの近くにいると、激しい感情が吸い取られてしまうのかもしれない。
「いいえ、これはいじめにも繋がりかねない行為ですよ。当校では絶対に許されないことです。逐一、校長に報告する規則になっていますので。」
「・・・そうか、分かったよ。」
とパンカジュ。そのパンカジュをさっきの女の子が涙目になりながら、きっと睨んだ。ケンタウロスの前でなかったら、思い知らせてやるのに、とでも言っているようだ。パンカジュは女の子の憎悪に満ちた視線を超人的な精神力で無視した。
「パンカジュ、助けてあげられなくてごめんね。」
「そんな、魔法を使おうとした俺を止めようとしてくれてただろ。無効化の魔法を使おうとしてたの分かってたよ。それになんだ、まあこういうこともあるかなって、予想してたしな。」
パンカジュの言葉に僕もうなだれる。エウロペアの人々は自分の生まれた土地の歴史や伝統に強い誇りを持っている。だから、違う土地の人間には冷たい対応をすることもあるってことは何度もワノ国の大人たちから聞かされた。それに、ただでさえ学校という閉鎖された空間の中で、目立つ外見をしているといじめや仲間外れの標的にはなりやすい。この件で、他の生徒から攻撃されることがなくても、皆から無視されるんじゃないかと不安になった。
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