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パンカジュの言葉に僕もうなだれる。エウロペアの人々は自分の生まれた土地の歴史や伝統に強い誇りを持っている。だから、違う土地の人間には冷たい対応をすることもあるってことは何度もワノ国の大人たちから聞かされた。それに、ただでさえ学校という閉鎖された空間の中で、目立つ外見をしているといじめや仲間外れの標的にはなりやすい。この件で、他の生徒から攻撃されることがなくても、皆から無視されるんじゃないかとこれからの生活が不安になった。
「うわあ、あれが大聖堂か。」
見ると、パンカジュがうっとりとした声を上げて、前方を見上げている。晴太も、その姿をとらえた瞬間、さっきまでの心労はどこえやら、思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
「ええ、こんなの見たこと無いや!!めちゃくちゃ凄い!!」
他の学生も興奮して、大聖堂を見上げながら、口々に興奮を交わし合っている。パシャパシャとカメラにその姿を収めている者も多い。それもそのはず、聖ギルデオン大聖堂というのは、百年前に始まった世界魔導遺産第三号目に登録された世界屈指の建築物である。教育施設にして、世界遺産であるということ、また学園の関係者でもなければ、滅多にお目にかかれる代物ではないということなどから、伝説の建築物として、エウロペアでは広く知られている。晴太の目には、建築というよりも、一つの生命体のように映った。聖堂の外壁全体には植物や波、あらゆる曲線や幾何学模様が彫刻されている。いや、聖堂に彫刻が施されているというよりは、彫刻から聖堂ができているようだった。ファサードには、絡まるツタや海を表した波の彫刻と見事に調和して、トルキスの生涯が体現されている。実は、よく見るとあちこちにエウロペア地域の主な宗教であるトルキス教のエッセンスがほどこされているということである。
「新入生諸君、わが校自慢の大聖堂はお気に召しましたかな?着替えなどの荷物は入学式が終わるまで、乗ってきた馬車で預かります。その後は上級生による校内紹介もあるので、その後、各自の部屋に行く前に取りに来るように。さあ、では皆さん三列になって、私の後ろから着いてきてくださいね。中に入ったら、静粛に前から順番に席に着くようにお願いします。」
とうっとりと聖堂を見上げている新入生たちを、サジタリウスが急かす。
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