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「実り多き七年間にしてもらいたいと思う次第であり・・・。」
なんたらかんたら。ネモフィラのやつめ。いつもいつもスピーチを長くつくりおって。ロイド校長は心の中で毒づいた。本当は簡単なスピーチにしたいといつも思っているのに、いつも教頭に長く格式高く由々しきスピーチに書き換えられてしまう。
「ニキアス・セネカ」
「はい。」
(おやおや、こいつは厄介な新入生が入ってきおったぞ。)
ニキアス・セネカは、金色に光り輝く髪の毛に地中海のような青いブルーの目をもつ美少年だった。遠目にも、これまで見た学生の中でも飛びぬけて美しい学生だと分かるほどだ。周囲の生徒は式典の最中であるにも関わらず、だらしなくあんぐりと口を開けてギリシャ彫刻も顔負けの美少年を見つめている。ロイド校長は心の中で頭を抱えた。驚いたことに、何の種類か分からない目くらましの魔法がかかっているようだ。何を隠しているのかは分からないが、美しさから目を逸らしているのではないことだけは確かだ。
「オマール・アフマド・ラメセス」
「はい。」
他の生徒と教師陣がざわつく前に、校長が一瞬で魔法をかけて黙らせた。ネモフィラがギロリと校長を睨んで、ハアとため息をつく。ネモフィラも初日から生徒が変に注目を浴びていたたまれない思いをするよりは、魔法を使った方がと思ったのだろう。世界一の魔導学校の一つとはいえ、古代王朝の末裔の男の子が入学してくるのは滅多にないことだ。やんごとなき身分の令嬢子息は大抵北国の超セレブレティ寄宿学校か、これまた高額の学費で有名な帝王学で有名な私立学校に行くのが普通である。まあそうした学校は往々にして、コネや金で就職・出世する子が多いので魔法の実力をつけるためにギルデオンに来る生徒もいるが、カプリス出身とはまた珍しい。
「パンカジュ・ラル」
「はい。」
入学式典だというのに、寝ぐせも直していないし、アイロンもかけていない、オマールと同じようなコーヒー色の肌をしたヒョロヒョロの、少しいたずらっぽい瞳をした学生が立ち上がった。治癒魔法専門のヴィルゴ先生がフンと鼻を鳴らすのが聞こえるかのようだった。いつものことであるが、だらしない生徒には、あまり良い反応はしない。
「ヴィオラ・バンクス」
「はーい。」
これはまた。その教員が面接試験でこの学生を通したのだろうと校長は頭をかかえた。ピンクに紫のメッシュを入れた衝撃的な髪の毛をライオンのようにひっつめ、人でも殺せるのではないかというブルーのつけ爪までつけている。問題を起こすために入学してきましたと言わんばかりのルックスである。校長は、すでに何かが起こりそうな予感をビシビシと感じていた。
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