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式典が終わって早々、ニキアス・セネカがほぼ全ての学生から、グリフォンの大移動さながらの猛アタックを受けていた。
「ニキアス君っておっしゃるのね!?良かったら、今晩私のお部屋までおいでなすってー。」
「良かったら、これからお茶でもどうですか!!」
「きゃー、こっち向いて!!」
ニキアス目当ての群衆で、前方の学生たちはなぎ倒され、押しつぶされているものも多かった。とっさに教員陣が衝撃の魔法で新入生をどかそうとするのを、すかさずロイド校長が抑えた。こんなところで生徒を吹き飛ばしてしまったなどと外部に知られれば、大ごとである。魔法と魔法の相殺でモクモクと白い煙が立ち上った。
「きゃー!!何よこれ!!」
白い煙の中からは、全長十五メートルはあろうかという巨大な蛇がしゅるしゅるととぐろを巻いて出てきた。良く見ると尻尾の先の方は、東洋の壺におさまっている。ロイド校長は米を醸造させた匂いを嗅ぎ取った。大蛇はチロチロと二又の舌を覗かせると、たちまちとぐろをほどき、大広間中に体を伸ばそうとした。
「ひーー!!」
最早、ニキアスどころではなく、何とかこの大蛇から逃げ出そうと慌てふためいている。に阿鼻叫喚の地獄絵図の中、生徒たちは散り散りになった。
「今のうちに逃げよう。」
とニキアスの手を晴太がとって、広間から中庭に通じる出口へと逃走した。ニキアスの手をとった少年はパチンと形の良い指を鳴らすと、広間では嘘のように大蛇が消えた。中庭は、秋の陽光でいっぱいになっていて、花の香りが風に乗って、二人の鼻腔をくすぐった。
「あの、ありがとう。君は?後、今のは魔法?」
「僕は、晴太。今のは蟒蛇(うわばみ)っていうワの国の妖怪だよ。」
ほっそりとした、涼し気な目はニキアスに比べるとお世辞にも美しいとは言えなかったが、不思議と好感の持てる顔立ちをしていた。二人は中庭の中央にある、グレコ神話のネプチューンとセイレーンをかたどった噴水に腰掛けた。
「君が呼び出したの?」
「そうだよ、召喚は僕の得意な魔法だからね。」
古代ワノ国に伝わる召喚術は、五行説という東方哲学に基づく秘術の一派から発達し、魔導生物を自由自在に呼び出すことができるというものである。もちろん、このエウロペオにも召喚を得意とする魔導士はいるが、エネルギーの源が異なると言われている。
「助かったよ、ありがとう。」
二人の少年はにっこりと微笑みあって、握手をした。晴太は深い海のようなニキアスの瞳を見ると、クラクラした。男の子の目を見て、こんなにドキドキするのは初めてだ。
「そうか、晴太はワの国から来たんだね。道理で今まで見たことない生き物だと思ったよ。」
「君は、西の国だよね。ニキアスって呼んでもいいかな。」
「もちろんだよ。」
ニキアスがぎゅっと晴太の手を握った。晴太はすっとニキアスから目を逸らした。ずっと見続けていたらどうにかなってしまいそうだ。手もすべすべで指は細長くて、どぎまぎする。この子とキスしたら、どんな感じだろうと考えると、晴太はとろけるような気持ちになった。
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