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めぐり逢い
「お二人さん、失礼するわね。」
ハスキーで低めの女の子の声が二人の後ろから聞こえた。振り返ると、キャンディを片手にしゃぶりながら、ファッション雑誌から抜け出してきたような女の子が立っていた。ショートパンツに半袖のピンクキャミソール。こげ茶の髪の毛はツインテールに束ねてある。
「ニキアス君、すごい魅惑の魔法ね。聖堂にいた人の魔法は私が和らげてあげたけど、晴太君のはあなたが解いてあげたら。うーん、すごい魔力。私も好きになっちゃいそう。」
晴太は、ぼんやりした頭で新しい闖入者を見た。入学式でも目立っていたけど、確かヴィオラという名の女の子だ。魅惑の魔法だって?知らない間に魔法にかけられてたっていうのか。だから、危うく好きになりかけたんだ。
「僕の魔法に一発で気づいたの?うわあ、君ってものすごい魔法使いだね。」
「私、治癒魔法が得意なのよね。あなたみたいなタイプの魔法を感知するのは得意なの。皆にかけた魅惑の魔法、解いてくれる?」
「なるほどね。でも、僕の魔法はなんていうか、その・・・少し、複雑なんだよね。」
晴太が二人を観察していると、ヴィオラが意識的にニキアスから視線を逸らしているのが分かった。そうか、魔法にかからないようにしてるんだ。
「もしかして、あなたのそれ、オーラなの?魅惑の魔法のオーラなんて聞いたことないわよ。行く先々でずいぶん大変な思いをしてるんじゃない?」
「あー、そうなんだ。ちょっと厄介でね。」
晴太は思わず口に出した。
「そのオーラって何さ。それに僕、いつの間に魔法にかけられたんだろう。年頃なら魅惑の魔法を使ってみたいと思うだろうけど、誰にも気づかれずに魔法をかけるなんて、いったいどうやったの。」
ヴィオラはちょっと驚いたように視線を上げると、、ニキアスから晴太に視線を移した。ニキアス以外の人を見ることができるから、安心しているみたいにも見えた。そのころには、晴太は意識せずにニキアスにぴったりと寄り添い、指を絡ませあっていた。ヴィオラの幾分冷ややかな視線も気にならないほどに自然にやっていた。
「あら、知らないの?オーラっていうのは、命あるものなら、必ず持っているその人自身の色のことよ。魔力を持ってない人間にも一応あるんだけど、でもオーラは魔力の源でもあるの。だから、魔力が強ければ強いほど、その人のオーラは輝きを増すの。あなた、見えないの?なんかこう・・空気の色が変わる感じよ。」
晴太は目をすぼめてニキアスやパンカジュをじっくりと見つめたが、何も分からない。第一、空気に色なんてあるはずないんだから、オーラなど見ることができるはずもない。
「ううん、ダメだ。何も見えないよ。」
とがっくり肩を落とす。ワノ国では、オーラというものを聞いたことはあったが、魔力の源であるという大事なことは誰にも教えられなかった。晴太は早くも挫折を味わった気分になった。
「そうなのね、あなたも素敵なオーラを持ってるのに、勿体ないね。」
「え、僕のオーラってどんななの!?」
「うーん、それはお楽しみ。噂だけど、最初の授業からオーラについて、じっくりと講義があるらしいから、きっと大丈夫よ。それに多分、オーラって努力とかじゃなくて、個人差によって見えにくい人もいるみたいだから、気にしないで。」
とヴィオラが慰めてくれる。晴太は内心、才能が無いと言われたような気になって、少し傷ついた。でもなんだか、見た目に反してずいぶん丁寧なしゃべり方をする子だな、と思った。共通語の微妙なニュアンスを理解できているわけではないけれど。
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