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入学式前夜
エウロペア暦二〇二二年、魔導教育においては世界最高峰と謳われるブリテリアが誇る聖ギルデオン学園は、入学式前日の深夜にあった。草木も眠る丑三つ時、学園の代表理事長兼校長でもあるロイド・クロノスは夢の中にあった。聖ギルデオン校長ともなると、うっかり世界五大禁呪の一つである夢渡りをしてしまわないよう注意する必要があった。そのせいか、ロイド校長は浅い眠りが習慣となっていた。
(校長、起きてらっしゃいますか。)
夢の中から突然テレパスで起こされたロイド校長は、うめき声を上げながら綿布団を引っぺがした。世界トップレベルの魔導士でありながら、この校長はむやみに魔法を使うことは好まない。
(今、起こされたわい!なんじゃ、こんな時間に。)
(複数の翼竜から警告を受けました。非常に強い魔力が校内に侵入したとのことです。)
夜行性の翼竜は、伝統と実績ある聖ギルデオン校、夜の警備を司る古代生物である。日中のケンタウロスと交代で世界最高峰の魔導学区を守護している。これに、教師陣がかけた数えきれないほどの防備魔法が幾重にも編み込まれており、教育施設としては世界屈指のセキュリティーを誇っている。
(何、本当か。)
信じられないほど夜でも効く視力と独自の魔力探知器官を体内に備えている翼竜は、妖精一匹たりとも見逃したことは無い。その翼竜から、しかも複数の翼竜から魔力を探知したという報告があったということは何かが侵入しているのはほぼ間違いない。ただ逆に、どうやってその侵入者がこの学園のセキュリティをかいくぐったのか、どうにも府に落ちない。魔力が高ければ高いほど、数々の魔導警報に引っ掛かるはずであるし、力づくで防備魔法を破ったというならともかく、誰にも気づかれずに侵入するということが本当に可能なのか。や翼竜たちの目を盗んで忍び込んだというのだろうか。
(私も全力で探知しておりますが、ご報告するべきかと。)
(わしも探してみよう。悪しき存在のように思えるか。)
(分かりません。とにかく強い魔力だったようですが、一瞬で消えてしまったと。悪いものか良いものか分からないと言っていました。)
ロイド校長は目を閉じ、深呼吸すると意識を学校の全敷地に張り巡らせた。彼のオーラの色は銀色。魔力を使うと体の内側からぼんやりと銀色のオーラがゆらゆらと発光しはじめる。校長は銀色の魔法を薄く広く学園全体にまんべんなく伸ばしていった。それは、風一つ無い真夏の夜の月明りのように、優しく学園中を満たした。あまりに繊細なオーラだったので、ロイド校長自身とネモフィラ教頭以外には、気づくものさえいなかった。式典や集会が行われる大聖堂から、学生寮の男子トイレの中まで隅々に意識を張り巡らした。今、学園の全ての空間で何が起こっているのか、校長はたった一人で感じることができた。優秀な魔導士でも一時間はかかる作業だろうが、ロイド校長はものの五分ほどで敷地内の魔力を発するものを生物・無生物にかかわらず全てスキャンした。
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