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「何のつもりだ、デイブ。」
その時、キリアンの声がはっきりと晴太の耳に届いた。他の音や声が朦朧としていた中で、キリアンの声は心に突き刺さるようだった。大きな声ではなかったが、よく砥いだナイフのように鋭く辺りの空気を切り裂き、晴太の鼓膜にまで到達した。
「よう、キリアン。お前も運が悪いよなあ、こんな猿どもの担当になっちまってよ。いっちょ前に人間様と同じ飯を食おうとしてたもんだから、俺が調教してやってたんだよ。お前の代わりにな。」
やっぱり、キリアン先輩も僕のことを、ちょっとは猿だなんて思ってるのかな、と晴太は苦しみながら、ぼんやりと考えた。
「ようお前、先公どもにチクりやがったら、もっと痛い目に合わせてやるからな。覚悟しとおけよ。」
デイブにそう言われなくても、もう晴太にはひとかけらの反抗心も残っていなかった。もう何をされても仕方ないんだという気分になっていた。
「悪いが、お前には警告は無しだ。その子を離せ。まあ、離さなくてもお前は俺が許さないがな。」
さっきまで、軽い口調で冗談を飛ばしていたキリアンの声とは思えないほど、真剣ですごみがあった。聞くものを畏怖させ、ひれ伏させる声だった。本当に怒ってるんだ、と晴太は考えた。怖かったけど、少し安心した。
ヒュウっと空を切る音が近くで聞こえた。ボコっという鈍い振動がデイブと呼ばれた男の体を通して、晴太にも伝わってきた。
「あ?キリアン、お前。良い度胸してるじゃねえか。」
「良い度胸してるのはそっちだ。俺の後輩に手出しやがって、ただじゃ帰さないから覚悟しとけよ、豚野郎。」
言い終わるか終わらないかのうちにキリアンの鋭い蹴りがデイブの肩甲骨をとらえる。
「・・ぐっ。この野郎・・・。」
体の大きいこのデイブという上級生にも、キリアンの攻撃はしっかりと効いたようだ。痛みと怒りに顔をゆがめたデイブが反撃する。ゆらりと立ち上がった山のような体から、晴太がこれまで見たこともないほどの禍々しい魔力が煙のように立ち上っている。キリアンとデイブの二人の周りから潮が引くように、他の生徒たちが後ずさった。晴太はデイブの出す魔法で、息ができなくなりそうになった。
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