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「パンカジュ、教科書は持ってきてないの?」
口では何も言わないが、アメリアとの仲直りを経てパンカジュはどことなく嬉しそうに見えた。昼食を食べている間も目に見えて機嫌が良くなっていた。平穏に昼食を食べ終えて最初の授業に向かおうとしているころ、ヴィオラがふとパンカジュに話しかけた。みんながパンカジュに注目すると、なんと初日の一回目の授業だというのに、パンカジュは手ぶらだった。
「ああ、あの・・・俺、実はもう教科書全部覚えちゃったんだ。だからいつもメモもとらないし、本も家で目を通して持ち歩かないようにしてるんだけど、まずかったかな。」
四人は目を見合わせた。誰も精神感応(テレパシー)はまだ誰もならっていなかったが、同じことを考えていた。(パンカジュの記憶の魔法ってこんなにすごかったのか?)
「すごいわね、パンカジュ。あなたの記憶力って生まれつきのもの?ニキアスのオーラみたいな感じなのかしら。」
ヴィオラがパチンと風船ガムをはじけさせて言った。
「うーん。もともと記憶力はいい方だったけど、訓練もかなりやったからね。ニキアスの能力はほとんど生まれつきみたいなものなんだろ?じゃあ、俺のとはちょっと違うかな。」
パンカジュが照れて頭をポリポリとかいた。ニキアスの相手の心を意のままにできる能力も空恐ろしいが、訓練したとはいえ、才能がなければたった1日で教科書の内容を全部覚えるなんてことできるわけがない。
「まあ。そう言う訳で、もし俺が教科書と違うこと言ってたら、教えてくれよ。」
「こっちが教えてほしいよ!!」
と四人は口をそろえて叫んだ。
「そんなの、常にカンニングしてるみたいなもんじゃないか。」
「そうよ!試験に魔法を使ってることにならないの?」
「テレパシーが使えるようになったら、テスト中に聞くからね。」
皆、興奮してパンカジュのところに詰め寄る。
「や、止めろよ!そういうの俺はしないからな!」
パンカジュはどこか怒ったような、怖がっているような声を張り上げた。あまりに意外な反応だったので、四人はビックリして、パンカジュに謝った。
「ごめんなさい、大丈夫?パンカジュ。」
「ああ、その通りだ。ほんの冗談なのだから、あまり気にするな。とはいえ、すまないことをした。すまない。」
「あ、ああ。いや。いいんだ!俺の方こそごめん。なんか、変な感じになっちゃって。いや、俺もさすがに不正はしたくないからさ。それに、たいていテストの時は魔法禁止だろ?俺もしてあげたいけど、できないわー、なんて。ハハハ。」
晴太はパンカジュの瞳の中の陰りを見逃さなかった。きっと、僕達には言えない何かを秘めているんだ、と思った。ただ、それだけの強力な魔法を持っていれば、煩わしいことも多いだろうということは、想像に難くなかった。
「あ、皆。そろそろ行こうか、授業。遅れちゃうよ。」
ニキアスが優しい笑顔で皆を教室へと促した。
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