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「まあよろしいでしょう。それでは、簡単に召喚の魔法についてご紹介していきましょうか。まず、皆さんには今日寮の部屋にある私物を一つ、この教室に呼び出してもらおうかと思います。召喚は命あるものになると難易度が上がりますからね。魔力を持たない動物、魔法生物、半獣、精霊、悪魔、天使、そして神の順に召喚の難易度は上がります。まあ最も悪魔・天使以上の存在を呼び出すことは禁じられていますし、神を呼び出せるほどの魔力を持つ魔導士は現世界にはいないとされていますが・・」
晴太の横でオマールがごくりとのどを鳴らした。初めての授業で緊張しているようだ。
「皆さん。それでは今寮の部屋にあるはずのものを各自、思い浮かべてください。なるべく詳細に、正確にお願いいたしますよ。目を閉じると、集中力が増して上手く呼び出せることが多いですよ。」
生徒たちはチラチラと不安そうに顔を見合わせたりしていたが、徐々に一人ずつ目を閉じて、ブツブツつぶやいている。
ヴィオラは紫のつけ爪を精いっぱい頭に思い浮かべながら、うーんうーんと唸っている。あらやだ、つけ爪のビーズの飾りってベビーピンクだったかしら、オフホワイトだったかしら。
ニキアスは魅惑の効果を強める香水をなんとかして呼び寄せようとした。目くらましのヴェールの魔法をかけてくれてありがたいけど、その代わりに虚栄心が満たされなくなってしまった。あの香水があればなんとかオマールも振り向かせられるかもしれないのに。これはプライドを賭けた闘いだぞ。ニキアスは集中力を高めた。隣の女子生徒が目を閉じたままふらふらとオーラにあてられてしまった。
当のオマールは、子どものころから大事にしいるぬいぐるみを想像してみようとしていた。うーん、ダメだな。犬のぬいぐるみが突然現れたら、ちょっと恥ずかしいな。スフィンクスの置物にしようか。それとも、お姉ちゃんからもらった香水瓶が良いかもしれない。結局オマールは気持ちが集中することができなくて、上手く呼び出せなかった。
パンカジュは部屋に置いてあるラップトップをイメージした。自分のパソコンなら、記憶の魔法を使わなくても、デザインも全てのファンクションキーもキーボードの裏のネジの位置まで、覚えてるのに、なぜか影も形も現れそうにない。情報の魔法を使って、召喚魔法の教科書を少しだけカンニングしてみたが、間違っているところも上手く呼び出すポイントも抑えているはずなのに、一つのキーさえも出てこない。やっぱり、先生の前ではこの手の魔法は封じられてしまうのか、さすがギルデオンだ。
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