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ネモフィラ教頭は、コツコツと松材の教室の床を叩きながら、教室を徘徊して回った。
「どうですか?誰か上手く呼び出せたものは?・・・・どうやら、いないようですね。」
晴太がおずおずと手を挙げた。
「どうしました?晴太・田中君。」
「・・・あの、呼び出せました。」
晴太は挙手した右側の脇をツーっと冷たい汗が伝うのを感じた。昨日の式典の時から感じてたけど、おっかないようだぞ。それに一番最初に手を上げるというのは、どうしても緊張する。
「おや、早いですね。・・で、何を呼び出したのでしょうか。何も見えませんが・・。」
教頭が訝し気に晴太の机をしげしげと眺める。糸くず一本も現れてないように見える。
「いえ、これです。」
晴太がピラっと一枚の写真を両手にとって教頭に差し出した。ネモフィラ教頭は少し目を細めながら写真を受け取った。眼鏡をかけていたなら、さしずめ人差し指でクイっと押し上げていただろう。写真には、温かく微笑んだ晴太と、その晴太の肩に腕を回し、くしゃっと目を細めた満面の笑みを浮かべた少年が写っている。
「なるほど・・・良い写真ですね。ありがとうございます。ですが、ごめんなさい。これでは小さすぎて、本当に呼び出したかどうか分からないんです。疑っているわけではないんですが。」
周りの生徒たちは目を閉じたままクスクスと笑い、晴太は顔まで真っ赤になった。ああ、目立ちたくないあまりさりげないものを呼び出そうとしたのに。かえって変に注目を浴びてしまった。まだ、蟒蛇(うわばみ)を出したのは僕だとバレていないんだろうか。晴太とは裏腹にネモフィラは内心、戸惑っていた。この生徒がウソをついているとも思えなかったし、かといって、先ほどから教室を注意して見回っていたのに、何の魔力の片鱗も感じられなかった。本当は魔法など使っていないのか、それとも・・・
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