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実際、世界トップレベルの魔導士たちが教員名簿に名を連ねており、単なる教育施設としてだけではなく、研究機関・魔法資源の保護施設としての顔も持ち合わせている。実際、聖ギルデオンが発表した魔法の特許はこれまでに千を超えているし、伝説の船乗りシンドバッドの財宝やマクベスの魔女の魔法薬、エルドラドやバビロンの古代図書館の本などが校舎内のどこかに眠っていると言われるほど、教育施設とは思えないほどの魔法資源を有していることになる。エウロペア暦千年ごろまでは、学校の宝を狙って、侵入を試みる族もいたと伝わっているが、今では、学校関係者以外は、保護者でさえ迂闊に近づこうとはしない。ケンタウロスや翼竜を突破できるとは思えないし、仮に突破できたとしても、校舎には侵入者に対する無数の罠や魔導生物がうろついている。侵入者にとっては自ら死地に赴くようなものである。
新入生たちは、外の世界から聖ギルデオンに続く唯一の架け橋である、跳ね橋をおっかなびっくり、ユニコーンの引く馬車で通りすぎていった。(エウロペアトップクラスの魔術を持つ若者たちでも、生きているユニコーンを自分の目で見ることができる日が来るとは夢にも思っていなかった。ちなみに、ユニコーンはプライドが高く聖ギルデオン高校以外の馬車は絶対に引かない。また、馬車を引くとしても二頭以上では引こうとしない。そして、これが一番重要なことであるが、前の座席に女子生徒を乗せては絶対にいけない。どんなに女子生徒が珍しがって、前に座りたがったとしても絶対にだ。)跳ね橋の下は学園をぐるりと取り巻く堀になっており、中には何が潜んでいるのか誰も知らないという。リオプレウロドンだというものもいれば、いやいやリヴァイアサンではないか、とも言われている。ロイド校長はまさか、いくらなんでも小型のクラーケンが息をひそめているぐらいではないのか、と思っていたが。
(とうとう、ここに入ることができるんだ。)
金髪碧眼のティーンエイジャーたちの軍団の中で一人、世界の極東日出処のワノ国からこの聖ギルデオン校の特待生枠で入学してくる晴太は、目を輝かせながら頑健なゴシック様式の校舎を見つめていた。他の学生は同じ学校の出身同士で入学を決めたものもいるようで、馬車の中でも今後の生活への期待と不安を膨らませ談笑していたが、目下のところ晴太にはその相手がいなかった。黒髪の黒い目で、顔の彫りも浅い。一目で他の学生とは異なる出身であると分かる容姿だったため、いまいちなじむことができなかった。晴太ももちろん、共通語をかなりマスターしていたが、どうしても臆してしまっていた。
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