入学式の朝

4/7
前へ
/182ページ
次へ
 古い石でできた大きな門の中に入ると、中庭のようなところで新入生たちはおろされた。晴太も馬車から降り、うっすらと濡れた芝生の上に足を下ろすと、目立たないように強張った腕や背中の腱や筋を伸ばしながら、あちこちに立ち込める魔法の匂いを体いっぱいに取り込んだ。ワノ国のあっさりとした魔法の空気とは違って、この世界の魔法は、バターとマーマレードの濃厚な匂いがうっすらと香る。魔力の強いところでは、グレーだかったオーラを感じることもあった。時折、ジンジャーのピリッとした刺激を嗅ぎ分けることができた。晴太はうっとりと、この世界の香りを楽しんでいた。何かが始まりそうな予感を孕んだ匂いだった。 「君、どこから来たの?きっと遠くからだよね?」  声をかけられた方を振り向くと、黒髪にチョコレート色の肌をしたヒョロッとした少年がニコニコと微笑みかけていた。明らかにエウロペアの出身ではないことが見て取れる。 「僕、ワノ国から来たんだ。」 「へえ!ワノ国出身の人なんて初めて会ったよ!俺もいつかは行ってみたいんだけどなあ。」 「君は、どこの国から来たの?同じ国の友達はいる?」 「俺は、マウリアっていう国から来たのさ。同じ国の友達はいない。マウリアからは史上初の入学生なんだ。名前はパンカジュ、よろしくな。」  パンカジュと名乗った少年は確かに、出だしの音にアクセントが来る独特の訛りがあった。 「へえ、僕は晴太っていうんだ。僕も実は、ワノ国からこの学校に入る最初の一人なんだ。」  お互い、共通語を母語としないもの同士の親近感もあったのかもしれない。典型的エウロペアの彫刻顔に透き通る肌と真っ青な目を持つ学生たちの間で、お互いに外れものだと感じて、好意を抱いたのかもしれない。とにかく晴太は、屈託なく話してくれるパンカジュに親しみを感じ、自然に右手を伸ばした。握手は全世界共通のコミュニケーションだ。パンカジュは晴太のよりも一回り大きな手でぎゅっと握り返した。 (良かった、どうにか一人友達はできそうだぞ。)と晴太は心の中で思った
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加