入学式の朝

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「さあさあ!!新入生の皆さんはこれから寮にご案内します!教科書は大広間に用意ができています。部屋割りも広間の壁一面に張り出してありますから、そこで確認してくださいね。名前を確認してから、教科書を一人一種類一冊ずつ取って、寮へ向かうこと。よろしいですね?」  とヒョロリとした、眼鏡の先生が言った。拡声魔法を使っているらしく、静かに喋っているようなのに、最寄り駅まで聞こえるんじゃないかというぐらい、芯の通った声で呼びかけていた。新入生たちは、馬車から降りた順に数十人ずつサジタリウスに導かれながら、学校の中へと進んだ。 「ねえねえ、サジタリウスって怖くないのかな?見てよ、あの矢じり。ドラゴンだって一発で仕留めれそうだぜ。」 「でも、一説によると人間よりも賢くて、滅多に怒らない生き物だって聞いてるけど。だって、人語を解する魔導生物なんてサジタリウスぐらいのもんじゃないかな。」  パンカジュと晴太は、ひそひそと話した。すると、二人の近くにいたツインテールの女の子がわざと聞こえるように、鼻を鳴らした。 「ヤダわ、せっかく憧れのギルデオンに入れたっていうのに、こんな田舎者たちと一緒にされちゃうわけ?たまんないわね。」  パンカジュはキッと声のする方を睨みつけたが、晴太は聞こえないふりをしておいた。後々、面倒なことになるぐらいなら、初めから関わり合いにならない方がいいことを、晴太は短い人生の中から学んでいた。面倒なことにはなるべく近寄らない、それが晴太の生き方だ。 「おい、もう一度言ってみろ。女の子だからって、許さないぞ。」 「プフフ、訛りがひどくてなんて言ってるか分かんないわー、ここで勉強する気なら、もうちょっと共通語ぐらいマスターしてきたら?」 「このぉ!許さない!」  パンカジュの黒い目と右手がキラリと光った。まずい、魔法で喧嘩する気かな。パンカジュって飄々としてるように見えたけど、結構頭に血が上りやすいタイプなのかもしれない。いずれにせよ、入学式もまだ始まってないのに、僕の初めての友達が喧嘩沙汰なんて起こしたら、退学ものかもしれない。肌の色も黒いし。それは困る、初めてできた大事な友達なんだから。  晴太は、無効の呪文をワノ国で覚えた向こうの呪文を使って、パンカジュにぶつけようとした。全く知らない場所で、初めて会った人間にどれほど通用するかは分からないが、入学早々トラブルに巻き込まれるのはごめんだ。すると、晴太が魔法をかけるより先に、隆々とした腕が後ろからパンカジュを羽交い絞めにした。
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