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「どうやら、思い出しまして?」
アンナの相変わらず柔らかな声で、意識が現実に回帰する。
そう、わたくしとルーエは、王族主催の宴の翌日、突然捕まったのだ。
王太子殿下を誑かそうとした魔女『達』として。
常日頃から、ルーエが部屋に籠って薬草の研究なぞをしていた事で、「ルーエが悪しき薬を王太子殿下に盛ろうとした」というアンナの言い分はすんなり通った。
しかし一体どういう事か。わたくしが今見た光景では、アンナとルーエの立場は、わたくしの記憶とまるで正反対ではないか。
「私は一度死んだ後、神の慈悲によって、赤ん坊から『やり直した』のですわ」
引っ込み思案だった頃が嘘のような、華美さを備えた姿で、アンナは笑っていた。
「宣言した通り、『貴女方』に復讐をする為に」
アンナの話はにわかに信じがたいが、わたくしが見たものを白昼夢と切り捨てるには、あまりにも生々しい。
アンナはわたくしとルーエを陥れる為に、時間を逆戻りし、ルーエの行動をなぞって、真反対に「成り代わって」いたというのか。
「アンナ!!」
ルーエが目を見開いて、双子の姉の名を叫ぶ。
「助けて! 助けてよ! 私達、一緒に生まれた姉妹でしょう!?」
それを聞いたアンナの碧眼が、すっと氷点下に凍った。静かに妹の前に膝をつき、顔を近づけて、「ルーエ」と慈愛に満ちた笑みで呼びかける。
「同じ事を貴女に言った私に、貴女が放った言葉を、そっくりそのまま返すわ」
途端、その形相が、悪鬼のごとく変わって、アンナは舌を出した。
「ざまあみろ! 私はずっとあんたが大嫌いだったのよ!!」
ルーエの表情が絶望に固まった。その後はもう、言葉にならない悲鳴が迸るばかり。
アンナはそれきり妹には興味を失った様子で、もう一度わたくしの前に立った。
嗚呼、これは母であるわたくしの罪だ。今ならはっきりわかる。
自分を持ち上げる甘い言葉ばかり受け入れてちやほやして、不器用な精一杯の愛情を突き放した。これはその報いだ。
「ごめんなさい」
力無く項垂れて、それだけを何とか紡ぎ出す。
「……お母様。大好きだったわ、本当よ。でも、それ以上に許せなかった。それだけ」
悪役令嬢になった娘が、どんな表情をしているか。何とか最期に見届けようと視線を上げるより早く。
ギロチンが降って、わたくしの世界は永遠の闇に閉ざされた。
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