悪役令嬢の母

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「おかあさま」  おどおどした声に、わたくしはうんざりしながら、目だけをそちらへ向ける。  嗚呼、この()はなんて暗い瞳をしているのだろう。  わたくしと同じ金髪碧眼を受け継ぎながら、公爵家の長女としてはあまりにもぱっとしない印象のアンナ。青と白のドレスに流しっぱなしの髪で、とてもやぼったい。  しどもどと手にした紙を差し出そうとするのも、いちいちかんに障る。 「今日はおかあさまのお誕生日です。だから、詩を作りました。だから」 「おかあさま!」  アンナの言葉を遮るように、快活な声と共に、赤いドレスをまとった娘が飛び込んできた。  嗚呼、わたくしの大好きな、明るいルーエ。アンナの双子の妹。 「おかあさま、今日はおかあさまのおたんじょうびでしょう? おかあさまにお似合いの花束を取り寄せたの!」  アンナを押し退けて、ルーエはわたくしの腕いっぱいに、赤薔薇の花束を渡してくれる。 「それに、おかあさまの『しょうぞうが』を、こっそり画家にかかせていたのよ! だいすきなおかあさまをびっくりさせようと思って、『わたしが』がんばったんだから!」  その台詞と共に、メイド達が布のかかった絵画を運び込んでくる。  布が取り払われれば、純銀の額縁に収まった、油絵によるわたくしがそこにいた。少々美人に過ぎるけれど。 「ありがとう、ルーエ。とても嬉しいわ」 「えへへ、おかあさま、だいすき!」  礼を述べると、ルーエは睫毛の多い碧眼をきらきらと輝かせ、わたくしの胸に飛び込んでくる。綺麗に巻いた髪を撫でてやれば、香油の良いにおいが漂う。  いつの間にか、アンナは部屋からいなくなっていた。本当に、暗くて何を考えているかわからない娘。 「おかあさま、わたしは世界でいちばんおかあさまを愛しているわ!」 「そうね。わたくしも、世界で一番貴女が好きよ、ルーエ」  甘えてくる明るい娘に笑顔で返す。  どうして、アンナが長女だったのだろう。快活なルーエが上だったら、何の躊躇いも気後れも無く、王太子殿の嫁候補へと送り出せたというのに。
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