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「お母様」
湯気を立てる粥を盆に載せ、アンナがわたくしの部屋に入ってくる。
「お風邪を召されたと聞きました。私が作った拙いものですが、どうか少しでもお腹に収めてください」
どうして拙い物を他人に食べさせようとするのだろう。この娘の謙遜は度が過ぎて、本当に嫌になる。軽く舌打ちをした時。
「お母様!」
部屋に飛び込んできたルーエがアンナを突き飛ばし、盆がひっくり返って毛足の長い絨毯を汚した。
「ああ、お母様、どうか死なないで。大好きなお母様がいなくなったら、私は悲しみで胸が張り裂けて、お母様のあとを追ってしまいそう」
寝台脇に膝をついて、ルーエははらはらと涙を流しながらわたくしの手を握る。その温度はひんやりとしていて、熱を持ったわたくしの身体に、山奥の清涼な湧き水のように染み入る。
「大丈夫よ。貴女を置いて死んだりはしないわ。大げさね」
苦笑しながら、空いている方の手で金髪をすいてやれば、ルーエはぴたりと涙を止めた。器用だと思うが、そんなところも愛らしい。
「ああ、お母様」
ルーエが幸せそうに、わたくしの手を頬に当て、囁くように告げる。
「早く元気になってね。心細かったら、私がいつまでも傍にいるわ」
嗚呼、本当に心優しい娘だ。
本当に、この娘が王太子殿に嫁いでくれれば、我が公爵家は安泰なのに。
アンナはいつの間にかいなくなっていたけれど、粥をひっくり返した場所は、しっとりと濡れていた。
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