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あたしは、お母さんが作るケーキが大好き。
特別な日にしか作ってくれないご褒美。食べるのも大好きだけど、お母さんがケーキを作っているところを眺めるのがすごく好きだったりするの。
ほら、今日もケーキを作っている。
あたしはいつの間にか定位置になったキッチンのカウンターに突っ伏しながら、お母さんがケーキを作っている所を眺めるの。それを知っているからなのか、お母さんはカウンターにわざわざ一人分の空間を毎回空けてくれている。
こんがり焼けたアーモンドクリーム入りのタルト生地がケーキクーラーの上に置かれていて、その横でお母さんはせっせとたくさんの果物を切っている。
今日のケーキはフルーツタルト。お母さんが作るケーキの中で、あたしが一番大好きなケーキ。だって今日は私の誕生日だもん。
みずみずしくて甘酸っぱいオレンジ。真っ赤に熟れて美味しそうなイチゴ。シロップ漬けだけどこれが意外といいアクセントになっている桃の缶詰——そして何よりあたしがフルーツタルトにあると好きだからという理由でわざわざ買ってくる洋ナシ。お母さんはそれらを慣れた手つきで切り分けていった。
果物を切り終わると、休憩を入れずにお母さんは冷蔵庫から何か出してきた。フルーツタルトには欠かせないカスタードクリームだ。それを滑らかになるまで混ぜ、絞り袋に詰めていく。
職人技のように手際よくタルトにカスタードクリームを絞り出していき、バランスよく、でも見栄えよく果物を並べていく。最後にはナパージュをハケで塗り、タルトを宝石のように輝かせた。
出来上がった宝石の山にあたしは目をキラキラと煌めかせる。
早速ナイフを入れてタルトを切り分けるお母さん。1切れをあたし用の可愛らしいお皿に盛れば、それをすかさずどこかへ持って行く。
ダイニングテーブルを過ぎて、やって来たのは和室。
そこにタルトを置いて、お母さんは悲しそうな顔をしていた。
ねえお母さん、何でそんなに悲しそうなの?今日はあたしの誕生日だよ?
あたしはケーキが置かれた場所の周辺を見た。あたしの写真が置かれている。
——そっか、あたし、死んだんだった。
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