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一星が家を出るとき、私は泣いた。最初の子だったし、彼と過ごした日々は何もかもが初めてで、巣立っていく彼への想いも、ひとしおだったから。
でも、この子がひとり立ちしたとき、私は同じ涙を流せるだろうか? 肩の荷が下りたと、ほんの少しでもそう思ってしまわないと、言いきれるか?
【お母さんのこと、嫌いなわけじゃない。ただ、ときどき苦しくなるの。なんでって言われても困るけど、ずっと一緒にいると余計に。だからしばらく、距離を置きたくて。】
――君といると疲れるんだ。
ふと、幸せだと思っていた日々から一変、夫から突然別れを切り出されたときのことが脳裏をよぎり、頭を振る。
『待って。とりあえず一旦帰っておいでよ。ふたりで話し合おう? ちゃんと聞くから。』
なるべく角を立てないよう、優しげな物言いで訴えかけたが、
【それができるなら、こんな逃げ方してないよ。】
返ってきた一言は、辛辣なものだった。逃げている、という自覚はあるらしい。
【それに、知らない人の家にいるわけじゃないでしょ?】
「そう、だけど……」
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