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意固地になっている娘をうまく説得する言葉が見つからず、どうしたものかと、ひとつに結んだ茶髪の後ろを掻きむしっていると、
~♪
今度は通話の着信音が鳴った。
藍――ではなく、一星からだ。
急いで出ると、
『あ、もしもし? 母さん?』
穏やかな声が応える。
「あっ、一星? なんかごめんね。藍が突然押しかけちゃったみたいで。……あの子、本当に来てるのよね?」
万が一と思い、声を潜めて尋ねたら、
『ハハッ、さすがにそこまでタチの悪い嘘はつかないって』
彼は快活に笑った。
言われてみれば、たしかにそうだ。もしも、その場しのぎで適当なことを言っているのだとしたら、このタイミングで一星から電話がかかってくることもないだろう。
「藍に……代わってもらえないかな?」
事実確認が取れたところで、おずおずと申し出る。
すると、『んー、ちょっと待って』と歯切れ悪い返答の後、しばらく間が空き、
『今は話したくないってさ』
案の定。
「でも、説得して帰らせないと……」
『いや、俺はべつにいいよ?』
「えっ……?」
予想外の一言に、面食らってしまう。
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