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 どうして忘れていたのだろう。勝手に分かった気になって、諦めて。  夫とのことだってそう。私は、誰かの心の動きに鈍感すぎるのだ。  誰よりも冷たかったのは、他でもない私だったのかもしれない。  *  その日を境に、お互いの心の氷が溶けたように、あたたかいやり取りが増えた。以前のようなとりとめのない話題も、剣呑さがなくなり、ラリーが続く。  だけど、藍はいつまで経っても帰ってこなかった。最初のうちは、どうせすぐに満足して夏休み中には戻ってくるだろう、と楽観的に考えていたのに。  年末年始ですら、顔を見せるのは一星だけ。彼は「元気でやってるから心配いらないよ。引っ込みつかなくなっちゃったのかもな」なんてのん気に笑っているから、ちょっとイラついた。  特に目立ったヘルプを求められたこともないので、ふたりでうまくやっているのだろう。少しばかり疎外感を覚えてしまう。  でもまぁ、  ――そろそろ帰っておいでよ。  たったこれだけを言えずにいる私も、藍と似たようなものだ。
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