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【1】
「『お母さん』を探すのを手伝って欲しいの」
唐突な藍の台詞に、目の前の婚約者は一瞬言葉を失ったように見えた。
「……え、と。君のお母さんて亡くなってる、よね? あ、もしかしてお母さんの想い出を辿る旅とかそういう意味?」
ようやく口を開いた貴幸は、藍の真意を量りかねているらしく探るように返して来る。
「ううん、違う。亡くなった母とは別に、──私には『本当のお母さん』がいるんじゃないかって。夢を見たのよ」
藍は真顔のまま静かに続けた。
「夢って──」
「真面目に聞いて! 夢、だけじゃないの」
笑い混じりで彼が言い掛けるのに、強い調子で言葉を被せる。
「ごめん。僕は別に茶化したわけじゃなくて、あんまり突拍子もなかったからつい。……だけど、藍が真剣なのに失礼だったね」
謝ってくれる貴幸に、藍も慌てて頭を下げた。
「……私も突っ掛かるみたいな言い方してごめんなさい。話、聞いてもらえる?」
「もちろん」
変わらず穏やかな調子の彼に軽く顎を引いて感謝を示す。
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