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7.母がおかしい
「 最近、お母ちゃんが、おかしい 」
今、母と一緒に住んでいる兄が、電話で、そう、ぼくに。
『 まさか、最近よく聞く、認知症になった?』
と、あわてたのだが、そうではないようだ。
「 最近、生きることの意味が、よくわからなくなった 」
などと、母が言い出したのだという。
今、わが家は、『 歴史上、最も平和 』と言えるかも知れない。
『 貧乏 』は、もう、昔話。
家は、完全に建て替わり、『 化け物屋敷 』の痕跡すらない。
今現在、家族に、深刻な問題を抱える者も、一人もいない。
「 家族が無事なら、わたしは満足 」
母は、以前から、いつも、そう言っていた。
「 それ以上を、望まないこと 」
それが、母のポリシーでも、あったはずである。
年老いた今頃になって、そんな事を言い出すとは!
『 もういい歳、気楽に生きてほしい 』
母に対し、ぼくは、ずっと、そんなふうに、思っていた。
が、それは、母に対する、一種の、侮辱だったようだ。
年老いたとはいえ、当然、母も、まだまだ、一人の人間。
今も、そしてこれからも、悩み、成長する存在に違いない。
今、母は、新たな出発を、しようとしてるのではないか?
「今、全国で、老人の反乱が、問題になっている」
そんな事を、テレビのニュースで、言っていた。
「 時代が変わる時、その兆候は、最も敏感な若者に現れる」
そんな言葉を、聞いたことがある。
若者の反乱ならぬ、『 老人の反乱 』。
いったい、何を意味しているのだろう?
今までの常識では、全く考えられない事が、起ころうとしている。
「 母がおかしい 」のは、実は、その前兆。
ぼくには、なぜか、そんな気がしてならないのだ。
( 『 化物屋敷の住人達 』 終わり )
<作者より>
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