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「母は私にも魚の血が流れてるから、子供が出来たときに、その子供もそうなるかもしれないっからって」
突拍子のない話に、昌樹は対応に困っているようだった。
「じゃあ……君は半分魚で半分人間の血が流れてるってこと?」
「うん。そうなるね」
昌樹は更に渋い顔をする。
「騙されたって思ってる?」
別に隠そうと思って、言わなかったわけじゃない。言った所で信じてくれないだろうし、それに母に会わせれば、頭のいい人なら察してくれるはずだった。
母もそう考えたからこそ、私に全てを話して魚に戻る決断をしていた。
『私の姿を見て無理だと思うならば、きっと貴方を受け入れてはくれないと思うの』
母はそう言っていた。母の母親――私の祖母も、同じように魚に戻って父を試したらしい。
私の父は水槽に向かって普通に挨拶をし、それから『親が魚に限らず狐でも犬でも、彼女を愛してます』と言ったらしい。
だから母は、父のことをずっと愛していたし、今でもこうして父の部屋にいる。触れあうことも話すことが出来なくても、金魚という姿になって父を見守っていた。
父みたいな人が稀少であることも分かっている。それでも私は、母のような幸せを追い求めてしまっていた。
「別れよ」
黙って俯く昌樹に、私の方から告げる。
「受け入れられないことを責めるつもりもないけど、無理に受け入れて欲しいとも思わないから」
昌樹と付き合って二年。父と同じ教師をしていて、私は同じ学校の事務員をしている。
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