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彼が子供に真摯に向き合う姿に惹かれていたし、優しくて誠実そうな雰囲気も父に似ていて好きだった。
それでも私は最初こそ、この恋を諦めようとしていた。母のこと、自分に流れる人魚の血のこと。歴代の彼氏達の変人を見る目を知っていたからこそ、私は誰とも付き合わない気でいた。好きな人から冷めた目で見られることほど、辛いことはないのだから。
私の諦観を彼が知るはずもなく、彼は私を夏祭りに誘ってきた。
私はこれを最後の恋の思い出だとばかりに、彼の誘いに乗った。でも付き合う気なんてなかった。
そんな私の心境を変えたのが、「ああいうの、あまり好きじゃない」と、彼が金魚すくいを見て漏らしたことだった。
私も母が金魚になってからというもの、その光景に複雑な思いを抱いていた。だから彼の発言が、私に強い衝撃を与えたのかもしれない。
「あんな風に弄ばれて、金魚が可哀想じゃん」
理由を問う私に彼が言った言葉が、私の期待を再び蘇らせてしまう。
心根の優しい彼なら、きっと受け入れてくれるかもしれないと。
だけど、この険悪な空気からして、それは幻想にしか過ぎなかったようだった。
「考える時間もくれないのか?」
「考えても無駄だよ。常識で考えたら、私の言ってることなんて、信じてもらえないから」
私は投げやりになっていた。昌樹に背を向け、窓の方を見る。すっかり日が暮れ、オレンジ色の眩しい光が私の目を刺す。
その鋭い光源のせいか、私の目は霞む。
私は小さく息を吸い、それから「今までありがとう」と吐き出そうとした。
その瞬間――パシャリと水をはじく音がして、私は驚いて音のした方を見た。
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